葉隠 / 聞書第一
大器は晩成といふ事あり。二十年三十年して仕果する事にならでは、大功はなきものなり。奉公を急ぐ心ある時、我が役の外に推參し、若巧者といはれ、乘氣さし、がさつに見え、出來したて功者振りをし、追從輕薄の心出來、後指さる〻なり。修行には胷を折り、立身する事は人より引立てらる〻ものならでは、用に立たざるなり。
新字:大器は晩成といふ事あり。二十年三十年して仕果する事にならでは、大功はなきものなり。奉公を急ぐ心ある時、我が役の外に推参し、若巧者といはれ、乗気さし、がさつに見え、出来したて功者振りをし、追従軽薄の心出来、後指さる〻なり。修行には胷を折り、立身する事は人より引立てらる〻ものならでは、用に立たざるなり。
書き下し
大器(たいき)は晩成(ばんせい)といふ事あり。二十年三十年して仕果(しはた)する事にならでは、大功(たいこう)はなきものなり。奉公を急ぐ心ある時、我が役の外に推参(すいさん)し、若巧者(わかこうしゃ)といはれ、乗り気さし、がさつに見え、出来(でき)したて功者振りをし、追従軽薄(ついしょうけいはく)の心出来、後指(うしろゆび)さるるなり。修行には胸を折り、立身する事は人より引き立てらるるものならでは、用に立たざるなり。
現代語訳
大器は晩成という言葉がある。二十年三十年とかけて成し遂げるのでなければ、大きな功績は残せないものだ。奉公に功を焦る心があると、自分の役目を越えて出しゃばり、「若いのに達者だ」と言われて調子に乗り、がさつに見え、にわか仕込みで通ぶり、へつらいや軽薄な心が出て、かえって陰で後ろ指をさされる。修行では地道に苦労を重ね、立身は人から引き立てられるのでなければ、役には立たないのである。
解説
早く認められたい焦りをいましめた一節です。大きな仕事は二十年三十年の積み重ねで初めて実を結ぶのであり、若くして功を急ぐと、出しゃばりや通ぶりに映り、かえって信を失うと説きます。武士の奉公は日々の務めを地道に磨くことが本筋で、立身は自分で押し出すのではなく、周囲に認められて引き上げられるのが自然だという考え方です。現代の仕事でも、目立とうと近道を焦るほど軽く見られ、逆に着実な蓄積が長い目で評価につながる場面は多いでしょう。急がず土台を厚くする姿勢を促す言葉と言えます。
この章句が説くこと
大器晩成焦らない地道な積み重ね出しゃばり信用長期視点
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