葉隠 / 聞書第一
若い内の立身して御用に立つは、のちぢなきものなり。五十ばかりより、そろ〳〵仕上げたるがよきなり。志ある者は其の内は私曲の事にてこれなきゆゑ、早く直るなり。
書き下し
若(わか)いうちに立身(りっしん)して御用(ごよう)に立(た)つは、のちぢ(後効(のちぢ)=後々の実り)なきものなり。五十(ごじゅう)ばかりより、そろそろ仕上(しあ)げたるがよきなり。志(こころざし)ある者(もの)はそのうちは私曲(しきょく)のことにてこれなきゆえ、早(はや)く直(なお)るなり。
現代語訳
若いうちに出世して役に立つのは、後々の実りが乏しく長続きしないものだ。五十くらいから、じっくりと仕上げていくのがよい。志のある者は、それまでの間、私利私欲やよこしまな心がないから、あやまちも早く直るのである。
解説
若くして出世し役に立っても長続きはしない、五十くらいからじっくり仕上げるのがよい、と説く一節です。志のある者はそれまでの間、私利私欲やよこしまさに染まっていないから、あやまちにも早く気づいて直せる、と言います。背景には、実力が伴わないうちの早い出世はかえって身を危うくするという武士社会の経験則があります。焦って功を急ぐより、地道に人格と技量を練り上げよ、という大器晩成の思想です。現代でも、若い成功が慢心や息切れを招くことは少なくありません。長い目で自分を育て、伸びしろを残しておく姿勢は、いつの時代にも通じるでしょう。
この章句が説くこと
大器晩成出世を急がない私欲を持たない自己鍛錬慢心を避ける長期視点
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