葉隠 / 聞書第一
我が上を人にいはせて意見を聞くのは人に超越する所以なり。並の人は我が一分にて濟ます故、一段越えたる所なし。人に談合する分が一段越えたる所なり。何某役所の書附を相談申され候。我等よりは能く書き調ふる人なり。添削を請はる〳〵が人より上なり。
新字:我が上を人にいはせて意見を聞くのは人に超越する所以なり。並の人は我が一分にて済ます故、一段越えたる所なし。人に談合する分が一段越えたる所なり。何某役所の書附を相談申され候。我等よりは能く書き調ふる人なり。添削を請はる〳〵が人より上なり。
書き下し
我(わ)が上(うえ)を人(ひと)にいわせて意見(いけん)を聞(き)くのは人(ひと)に超越(ちょうえつ)するゆえんなり。並(なみ)の人(ひと)は我(わ)が一分(いちぶん)にて済(す)ます故(ゆえ)、一段(いちだん)越(こ)えたるところなし。人(ひと)に談合(だんごう)する分(ぶん)が一段(いちだん)越(こ)えたるところなり。何某(なにがし)役所(やくしょ)の書付(かきつけ)を相談(そうだん)申(もう)され候(そうろう)。我等(われら)よりは能(よ)く書(か)き調(ととの)うる人(ひと)なり。添削(てんさく)を請(こ)わるるが人(ひと)より上(うえ)なり。
現代語訳
自分のことを他人に語らせ、その意見に耳を傾けることこそ、人より一段抜きん出る理由である。並の人は自分ひとりの判断で済ませてしまうから、一歩先へ抜け出せない。人に相談する分だけ、一段上に立てるのだ。ある人が役所の書類について相談された。私よりも文章を上手に整える人である。その人があえて添削を請うところが、人より上なのだ。
解説
自分のことを他人に語らせ、その意見に耳を傾けることこそ、人より一段抜きん出る理由だ、と説く一節です。並の人は自分ひとりの判断で済ませてしまうから、一歩先へ抜け出せない。人に相談する分だけ一段上に立てる、と言います。例として、自分より文章の上手な人が、あえて添削を請うたことを「人より上」と評しています。背景には、独りよがりを排し衆知を借りる姿勢を重んじる考えがあります。現代でも、優秀な人ほど自分の仕事を人に見てもらい、率直な意見を求めます。プライドより成長を選び、他者の目を借りられるかどうかが、伸びる人と止まる人を分けるのでしょう。
この章句が説くこと
他者の意見衆知を借りる率直な指摘独りよがりを排す相談謙虚さ
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