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葉隠 / 聞書第一

短氣にしてはならぬ事ともあり。庵替の事、口達。よき時節が出來するものなり。此の樣なる事は堪忍が第一なり。爰ぞと思ふ時は、手早くたるみなき様にしたるがよきこともあり。案じ廻つて、ぐどつきて仕損ずることあり。又初めより一途に踏破つてよきこともあり。愛想も盡き興も覺むる様にして却つてよきことがあるなり。斯樣なる時は、別けて、兎角氣をぬかさず、胸据わるが肝要なり。

新字:短気にしてはならぬ事ともあり。庵替の事、口達。よき時節が出来するものなり。此の様なる事は堪忍が第一なり。爰ぞと思ふ時は、手早くたるみなき様にしたるがよきこともあり。案じ廻つて、ぐどつきて仕損ずることあり。又初めより一途に踏破つてよきこともあり。愛想も尽き興も覺むる様にして却つてよきことがあるなり。斯様なる時は、別けて、兎角気をぬかさず、胸据わるが肝要なり。

書き下し

短気にしてはならぬ事ともあり。庵替(いおりがえ)の事、口達(くだつ)。よき時節が出来(しゅったい)するものなり。この様なる事は堪忍が第一なり。ここぞと思う時は、手早くたるみなき様にしたるがよきこともあり。案じ廻(まわ)って、ぐどつきて仕損ずることあり。また初めより一途(いちず)に踏み破ってよきこともあり。愛想も尽き興も覚むる様にして、かえってよきことがあるなり。かような時は、別けて、とかく気をぬかさず、胸据(すわ)るが肝要なり。

現代語訳

短気を起こしてはならない事柄もある。(庵を替える件については口頭で伝える。)待っていれば、よい時機が自然に巡ってくるものだ。こういうことは堪忍が第一である。一方で、「ここぞ」と思うときには、手早くたるみなく事を運んだほうがよい場合もある。あれこれ思い巡らしてぐずぐずしていると、かえって仕損じることがある。また、最初から一途に押し通してうまくいくこともある。(相手の)愛想が尽き興も冷めるほど押し切って、かえって好結果になることもある。こうしたときには、とりわけ気を抜かず、肝を据えることが肝心である。

解説

事を成すには、堪えて時機を待つべき時と、間髪入れず押し切るべき時があると説く一条です。多くの場面では短気を戒め、堪忍して好機の到来を待つのが第一。しかし「ここぞ」という勝負どころでは、迷って考えすぎるとかえって仕損じるので、たるみなく一気に踏み切れ、と説きます。堪忍と決断という一見矛盾する二つを、状況に応じて使い分ける柔軟さが眼目です。共通して求められるのは、どちらの場合も気を抜かず「胸が据わる」こと。現代の仕事や交渉でも、待つべき時と勝負すべき時の見極め、そしていずれの局面でも動じない肝の据わり方は、成果を分ける要になるでしょう。

この章句が説くこと

堪忍決断のタイミング待つ力と攻める力動じない肝時機を見る過度な思案を避ける

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