葉隠 / 聞書第一
海音和尚の前にて、草紙御讀み候が、「小物共小僧達皆参り聞かれ候へ、聞手がすくなければ讀みにくし。」と御申し候。和尚感心、小僧共に、「何事もあの氣ぞ。」と申し候なり。
新字:海音和尚の前にて、草紙御読み候が、「小物共小僧達皆参り聞かれ候へ、聞手がすくなければ読みにくし。」と御申し候。和尚感心、小僧共に、「何事もあの気ぞ。」と申し候なり。
書き下し
海音(かいおん)和尚の前にて、草紙(そうし)を御読み候が、「小物(こもの)ども小僧達(こぞうたち)、皆参りて聞かれ候え、聞き手が少なければ読みにくし」と御申し候。和尚感心し、小僧どもに、「何事もあの気(き)ぞ」と申し候なり。
現代語訳
海音和尚の前で、(ある若い方が)草紙を読み上げていたが、「下働きの者や小僧たちも、みな来て聞きなさい。聞き手が少ないと読みにくいから」とおっしゃった。和尚は感心して、小僧たちに「何事も、あの心意気で臨むのだぞ」と言った。
解説
物事は、大勢に向かって張り合いをもって臨むほど力が出る、と気づかせる一条です。草紙を読む若い方が「聞き手が少ないと読みにくいから、下働きの者も小僧も皆呼んで聞かせよ」と言った。その積極的な心意気に海音和尚は感心し、「何事もあの気概で臨め」と弟子たちに諭します。人に見られ、聞かれる場を進んで求める姿勢が、かえって自分を鍛え、事を張りのあるものにするのです。葉隠は逃げ腰や引っ込み思案を嫌い、進んで前に出る気位(きぐらい)を重んじます。現代でも、人前を避けず、多くの相手に向けて堂々と語り、務めを果たそうとする人は伸びます。萎縮せず場を広げにいく積極性こそ、あらゆる事に通じる心構えだという教えです。
この章句が説くこと
積極性気概人前で務める張り合い前に出る萎縮しない
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