葉隠 / 聞書第一
酒盛の樣子はいからうあるべき事なり。心を附けて見るに、大方飲むばかりなり。氣が附かねばいやしく見ゆるばかりなり。大方、人の心入、酒盛にてあらはるる物なり。
新字:酒盛の様子はいからうあるべき事なり。心を附けて見るに、大方飲むばかりなり。気が附かねばいやしく見ゆるばかりなり。大方、人の心入、酒盛にてあらはるる物なり。
書き下し
の様子はいからう(いかようにも)あるべき事である。心を附けて見るに、おおかた飲むばかりである。気が附かねば卑(いや)しく見ゆるばかりである。おおかた、人の心入(こころい)れは、酒盛にてあらわれる物である。
現代語訳
酒は人前の公(おおやけ)の席のものであり、あくまで晴れやかに、きれいに振る舞ってこそ酒である。酒の席には人の心があらわれる。酒盛りの様子はさまざまであるが、よく注意して見ると、たいていの者はただ飲むばかりだ。心づかいのない者は、ただ卑しく見えるだけである。おおよそ、人の心根というものは、酒の席にこそはっきりあらわれるものだ。
解説
酒席は私的な放縦の場ではなく、人目のある「公界(くがい)」の場だ、と説く一条です。だからこそ乱れず、晴れやかに、きれいに飲んでこそ酒だと常朝は言います。そして、酒の席には人の本性や心づかいが如実にあらわれる、とも指摘します。ただ飲むだけの者、心配りのない者は、たちまち卑しく見えてしまう。武士にとって酒席もまた自らを律し、品位を示す場だったのです。現代でも、酒の席や気のゆるむ場面での振る舞いは、その人の素の人柄を映します。緊張を解く場だからこそ、崩れきらず品を保てるかが問われる。羽目を外す場ではなく、人が見られている場なのだ、という戒めとして今も通じます。
この章句が説くこと
酒席の作法公の場品位自制本性があらわれる心づかい
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