五輪書 / 水の巻
第四の構左の脇に横に構へて敵の打かくる手を下よりはるべし下よりはるを敵打落さんとするを手をはる心にて其儘太刀の道をうけ我肩の上へすぢかひにきるべし是太刀の道也又敵の打かくる時も太刀の道をうけて勝道也能々吟味有べし
書き下し
第四の構、左の脇に横に構へて、敵の打ちかくる手を、下よりはるべし。下よりはるを、敵打ち落さんとするを、手をはる心にて、其の儘太刀の道をうけ、我肩の上へすぢかひにきるべし。是れ太刀の道なり。又敵の打ちかくる時も、太刀の道をうけて勝つ道なり。能々(よくよく)吟味有るべし。
現代語訳
第四の構えは、左脇に太刀を横に構えて、敵が打ちかかってくる手を下から張る。下から張ったのを敵が打ち落とそうとするのを、手を張る心持ちで、そのまま太刀の自然な軌道(太刀の道)に乗せて受け、自分の肩の上へ斜めに斬り上げる。これが太刀の道である。また敵が打ちかかってくるときも、太刀の道に乗せて受けることで勝つ道だ。よくよく吟味すべきである。
解説
五つの表の第四、左脇の構えを説く一段です。敵の手を下から張り、相手の反応を「太刀の道」に乗せて肩の上へ斜めに斬り上げる、という技が示されます。この段で繰り返し登場するのが「太刀の道」という言葉です。太刀にはその重さと形に応じた自然な軌道があり、無理に力で操作するのではなく、その軌道に敵の動きも自分の動きも乗せていく――それが勝つ道だとされます。受けるときも、力で押し返すのではなく太刀の道に乗せて受ける。技術を、対象がもつ自然な理(ことわり)に沿わせるという武蔵の一貫した発想が、ここでも技の骨格になっています。力任せでなく、物の理に乗って動くことの合理性を体で覚えるための一形です。
この章句が説くこと
五つの表左脇の構太刀の道自然な軌道力まない理に沿う
関連する章句
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五輪書・水の巻第五の次第、太刀の構、我右の脇に横に構へて、敵打ちかくる所のくらゐをうけ、我太刀の下の横よりすぢかへて、上段に振り上げ、上より直(すぐ)にきるべし。是も太刀の道能(よ)く知らん為なり。此のおもてにてふりつけぬれば、おもき太刀自由にふらるる所なり。此の五ツのおもてに於て、こまかに書き付くる事に非ず。我家の一通、太刀の道を知り、亦(また)大形拍子をも覚え、敵の太刀を見分くる事、先づ此の五ツにて、不断手をからす所なり。敵と戦ひの内にも、此の太刀すぢをからして、敵の心を受け、色々の拍子にて如何様(いかやう)にも勝つ所なり。能々(よくよく)分別すべし。
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五輪書・水の巻第一の構、中段、太刀先を敵の顔へ付けて、敵に行き相(あ)ふ時、敵太刀打ちかくる時、右へ太刀をはづして乗り、又敵打ちかくる時、きつさきかへしにて打ち、うち落したる太刀其の儘置き、又敵の打ちかくる時、下より敵の手はる、是れ第一なり。総別、此の五ツの表、書き付くる斗(ばか)りにては合点なりがたし。五ツの表のぶんは、手にとつて太刀の道稽古する所なり。此の五ツの太刀筋にて、我太刀の道をも知り、如何様(いかやう)にも敵の打太刀知るる所なり。是れ二刀の太刀の構、五ツより外に有らずと知らする所なり。鍛錬すべきなり。
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五輪書・水の巻太刀の道を知るといふ事は、常に我さす刀を、ゆび二ツにて振る時も、道すぢ能(よ)く知りては、自由に振るものなり。太刀をはやく振らんとするによつて、太刀の道ちがひて振りがたし。太刀は振りよき程に静に振るなり。或は扇、或は小刀など遣ふ様に、はやく振らんと思ふによつて、太刀の道ちがひて振りがたし。夫(それ)は小刀きざみといひて、太刀にては人のきれざるものなり。太刀を打さげては、あげよき道にあげ、横に振りては、横にもどりよき道へもどし、いかにも大きにひぢをのべて、強く振る事、是れ太刀の道なり。我兵法の五ツの表を遣ひ覚ゆれば、太刀の道定まりて、振りよき所なり。能々(よくよく)鍛錬すべし。
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五輪書・水の巻第二の太刀、上段に構へ、敵打ちかくる所、一度に敵を打つなり。敵を打ちはづしたる太刀、其の儘置きて、又敵の打つ所を、下よりすくひ上げて打つ。今一ツ打つも同じ事なり。此の表の内に於ては、様々の心持、色々の拍子、此の表のうちを以て、一流の鍛錬をすれば、五ツの太刀の道こまやかに知つて、如何様(いかやう)にも勝つ所有り。稽古すべきなり。
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五輪書・水の巻身にかはる太刀共いふべし。惣(そう)て敵を打つ身に、太刀も身も一度には打たざるものなり。敵の打つ縁により、身をばさきへうつ身になり、太刀は身にかまはず打つ所なり。若(もし)くは身はゆるがず、太刀にて打つ事は有れども、大形は身を先へ打ち、太刀をあとより打つものなり。能々(よくよく)吟味して打ち習ふべきなり。
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五輪書・水の巻第三の構、下段に持ち、ひつさげたる心にして、敵の打ちかくる所を、下より手をはるなり。手をはる所を亦(また)敵、はる太刀を打ち落さんとする所を、こす拍子にて、敵打ちたるあと、二のうでを横にきる心なり。下段にて敵の打つ所を、一度に打ち留むる事なり。下段の構、道をはこぶに、はやき時も遅き時も出合ふものなり。太刀を取りて鍛錬有るべきなり。