五常訓 / 巻之三・仁之下
人欲にかちて、又天理にかへる、二の工夫なり。一を缺くべからず。人欲にかちたるのみにて、天理を存せざるは、異學の事なり。此問答は、孔顏傳授の心法なり。いるがせに思ふべからず。學者のつとめ行ふべき所なり。
新字:人欲にかちて、又天理にかへる、二の工夫なり。一を欠くべからず。人欲にかちたるのみにて、天理を存せざるは、異学の事なり。此問答は、孔顔伝授の心法なり。いるがせに思ふべからず。学者のつとめ行ふべき所なり。
書き下し
人欲にかちて、又天理にかへる、二の工夫なり。一を欠くべからず。人欲にかちたるのみにて、天理を存せざるは、異学の事なり。此問答は、孔顔伝授の心法なり。いるがせに思ふべからず。学者のつとめ行ふべき所なり。
現代語訳
人欲に克ち、また天理に帰るという、二つの工夫です。一つも欠いてはなりません。人欲に克っただけで、天理を保たないのは、異学のことです。この問答は、孔子と顔子の間で伝えられた心法です。おろそかに思ってはなりません。学ぶ者が務め行うべきところです。
解説
克己と復礼は二つで一組の工夫で、欲を抑えるだけで天理に帰らないのは「異学」だと述べています。ここでいう異学は、欲を断つことだけを目指す仏教や老荘の修行を念頭に置いた朱子学の批判です。孔子と顔回の問答は、儒学の心の修養法の核心として朱子も重んじました。悪い習慣をやめるだけでなく、良い習慣に置き換えることが大切だという考えは、生活習慣の改善や自己成長を目指すときにも実践的な助言になります。
この章句が説くこと
克己復礼天理人欲心法
関連する章句
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『五常訓』巻之三・仁之下人のわざ多しといへども、此四の事の外にこれなし。此四の事につきて、其心に私欲なくして、礼を以て物を見、物を聞き、礼を以て口にいひ、体にうごくべし。非礼とは、上にいへる、己が身より出づる私欲なり。淫声邪色などの、外物の非礼にはあらず。非礼勿視とは、身に礼なくして、私欲を以て物を見る事をいましむべしと也。外の邪なる色見ざるは云ふに及ばず。非礼して勿聴とは、身に礼なくして、私欲を以て物を聞く事をいましむべしとなり。外の淫声を聞かざるは云ふに及ばず。非礼していはず、非礼して動かず。此四の者は、身の私欲にかちて、天理にかへる工夫の条目にて、即仁をするの事なり。克己は人欲にかつなり。復礼は天理を存するなり。
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『大和俗訓』巻之三・心術上一色慾名利の念、皆是人情なれば、時としておこりやすし。其ままおきては徳を害す。其おこる時にいましむるには、克己の工夫を用ふべし。己に克つこと、尤かたし。十分の力を用ふべし。おろそかにすべからず。但はじめて慾のおこるきざしに克つこと甚やすし。是克己の要法なり。平生学問し、道義を好む志ふかくば、おのづから名利色貨の念はうすくなるべし。天理すすめば人欲しりぞく。人欲すすめば天理しりぞく。凡物は二ながら一時に立たざる理なり。
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『五常訓』巻之三・仁之下一孔子の弟子顔淵、仁を問ひ給ふ。孔子答へて曰く、己に克ちて礼に復るを仁と為す。己とは身の私欲也。礼とは、身の行ふこと理にかなひて、ほどよきを云ふ。仁を害するものは身の私欲なり。身の私欲にかちて、身の行ふ所理にかなひて、ほどよきに立ちかへりぬれば、本心の徳に害なくして、全くなる。全しとは、きずなきを云ふ。是仁をなす工夫なり。凡私欲は、おのが身より出づるものなる故に、己が身にかつは、即私欲にかつなり。礼は元来吾が身に生れつきたる理なれど、私欲に奪はれて、取失へるを、もとの如く取返して、立帰るべしとなり。顔子、又、己に克ち礼に復るべき条目を問へり。孔子こたへ給ふ意は、凡人の身に、耳目口体あり。目は見、耳はきき、口はいひ、体はうごく。
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『五常訓』巻之三・仁之下一身の私にかちて、道理に立ちかへるは、仁の体なり。人を愛し、物を利益するは、仁の用なり。体ありて後、用行はる。故にまづ我が身の私にかち、礼にかへるべし。人欲去らず、天理行れずしては、仁愛の道、人に施しがたし。
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伝習録・薛侃録子仁問う、「『学びて時に之を習う、亦た説(よろこ)ばしからずや』を、先儒は学を以て先覚の為す所に効(なら)うと為す。如何」と。先生曰く、「学は是れ人欲を去り天理を存するを学ぶなり。人欲を去り天理を存するに従事すれば、則ち自ら諸を先覚に正し、諸を古訓に考え、自ら許多の問弁・思索・存省・克治の工夫を下す。然れども此の心の人欲を去り、吾が心の天理を存せんと欲するに過ぎざるのみ。若し『先覚の為す所に効う』と曰わば、則ち只だ学中の一件の事を説き得たるのみ。亦た専ら諸を外に求むるに似たり。『時に習う』とは、『坐すること尸の如し』とは、専ら坐するを習うに非ず。坐する時、此の心を習うなり。『立つこと斉するが如し』とは、専ら立つを習うに非ず。立つ時、此の心を習うなり。『説』は是れ『理義の我が心を説ばしむ』の説なり。人心は本と自ら理義を説ぶ。目は本と色を説び、耳は本と声を説ぶが如し。惟だ人欲の蔽う所、累わす所と為りて、始めて説ばざる有り。今、人欲、日に去らば、則ち理義、日に洽浹(こうしょう)す。安くんぞ説ばざるを得んや」と。
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言志四録・南洲手抄真己を以て仮己に克つ、天理なり。身我を以て心我を害す、人欲なり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
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