学問のすゝめ / 十七編・人望論・人の顔色はなお家の門戸のごとし
第二 顔色容貌を快くして、一見、直ちに人に厭わるることなきを要す。肩をそびやかして諂い笑い、巧言令色、太鼓持ちの媚を献ずるがごとくするはもとより厭うべしといえども、苦虫を噛み潰して熊の胆をすすりたるがごとく、黙して誉められて笑いて損をしたるがごとく、終歳胸痛を患うるがごとく、生涯父母の喪にいるがごとくなるもまたはなはだ厭うべし。顔色容貌の活発愉快なるは人の徳義の一ヵ条にして、人間交際においてもっとも大切なるものなり。人の顔色はなお家の門戸のごとし、広く人に交わりて客来を自由にせんには、まず門戸を開きて入口を洒掃し、とにかくに寄りつきを好くするこそ緊要なれ。
書き下し
第二 顔色容貌を快くして、一見、直ちに人に厭わるることなきを要す。肩をそびやかして諂い笑い、巧言令色、太鼓持ちの媚を献ずるがごとくするはもとより厭うべしといえども、苦虫を噛み潰して熊の胆をすすりたるがごとく、黙して誉められて笑いて損をしたるがごとく、終歳胸痛を患うるがごとく、生涯父母の喪にいるがごとくなるもまたはなはだ厭うべし。顔色容貌の活発愉快なるは人の徳義の一ヵ条にして、人間交際においてもっとも大切なるものなり。人の顔色はなお家の門戸のごとし、広く人に交わりて客来を自由にせんには、まず門戸を開きて入口を洒掃し、とにかくに寄りつきを好くするこそ緊要なれ。
現代語訳
第二に、顔色と容貌を快くして、一目見て直ちに人に嫌われることがないようにする必要があります。肩をそびやかして媚び笑い、巧言令色で太鼓持ちのように媚びるのはもとより嫌うべきですが、苦虫を噛み潰して熊の胆をすすったよう、黙っていて誉められ笑って損をしたよう、一年中胸を病んでいるよう、生涯父母の喪に服しているようなのも、また非常に嫌うべきです。顔色と容貌が活発で愉快なのは人の徳義の一か条であって、人の交わりにおいて最も大切なものです。人の顔色は家の門戸のようなものです。広く人と交わって客の出入りを自由にしようと思えば、まず門戸を開いて入口を掃き清め、とにかく寄りつきをよくすることこそ大切です。
解説
この章句が説くこと
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『学問のすゝめ』十七編・人望論・戸の入口に骸骨をぶら下げてしかるに今、人に交わらんとして顔色を和するに意を用いざるのみならず、かえって偽君子を学んで、ことさらに渋き風を示すは、戸の入口に骸骨をぶら下げて、門の前に棺桶を安置するがごとし。誰かこれに近づく者あらんや。世界中にフランスを文明の源と言い、智識分布の中心と称するも、その由縁を尋ぬれば、国民の挙動常に活発気軽にして言語容貌ともに親しむべく近づくべきの気風あるをもって原因の一ヵ条となせり。
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『学問のすゝめ』十七編・人望論・気軽な人、気のおけぬ人余輩もとより今の人民に向かいて、その交際、親子夫婦のごとくならんことを望むにあらざれども、ただその赴くべきの方向を示すのみ。今日俗間の言に人を評して、あの人は気軽な人と言い、気のおけぬ人と言い、遠慮なき人と言い、さっぱりした人と言い、男らしき人と言い、あるいは多言なれどもほどのよき人と言い、騒々しけれども悪からぬ人と言い、無言なれども親切らしき人と言い、こわいようなれどもあっさりした人と言うがごときは、あたかも家族交際の有様を表わし出して、和して真率なるを称したるものなり。
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『学問のすゝめ』十七編・人望論・人にして人を毛嫌いするなかれ人類多しといえども、鬼にもあらず蛇にもあらず、ことさらにわれを害せんとする悪敵はなきものなり。恐れはばかるところなく、心事を丸出しにしてさっさと応接すべし。ゆえに交わりを広くするの要は、この心事をなるたけ沢山にして、多芸多能一色に偏せず、さまざまの方向によりて人に接するにあり。あるいは学問をもって接し、あるいは商売によりて交わり、あるいは書画の友あり、あるいは碁・将棋の相手あり、およそ遊冶放蕩の悪事にあらざるより以上のことなれば、友を会するの方便たらざるものなし。あるいはきわめて芸能なき者ならばともに会食するもよし、茶を飲むもよし。なお下りて筋骨の丈夫なる者は腕押し、枕引き、足角力も一席の興として交際の一助たるべし。腕押しと学問とは道同じからずして相ともに謀るべからざるようなれども、世界の土地は広く、人間の交際は繁多にして、三、五尾の鮒が井中に日月を消するとは少しく趣を異にするものなり。人にして人を毛嫌いするなかれ。
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