学問のすゝめ / 十七編・人望論・今の日本人は今の日本語を巧みに用いて
あるいは書生が「日本の言語は不便利にして、文章も演説もできぬゆえ、英語を使い英文を用うる」なぞと、取るにも足らぬ馬鹿を言う者あり。按ずるにこの書生は日本に生まれていまだ十分に日本語を用いたることなき男ならん。国の言葉はその国に事物の繁多なる割合に従いて、しだいに増加し、毫も不自由なきはずのものなり。何はさておき今の日本人は今の日本語を巧みに用いて弁舌の上達せんことを勉むべきなり。
書き下し
あるいは書生が「日本の言語は不便利にして、文章も演説もできぬゆえ、英語を使い英文を用うる」なぞと、取るにも足らぬ馬鹿を言う者あり。按ずるにこの書生は日本に生まれていまだ十分に日本語を用いたることなき男ならん。国の言葉はその国に事物の繁多なる割合に従いて、しだいに増加し、毫も不自由なきはずのものなり。何はさておき今の日本人は今の日本語を巧みに用いて弁舌の上達せんことを勉むべきなり。
現代語訳
あるいは書生が、日本の言語は不便で文章も演説もできないから英語を使い英文を用いる、などと、取るに足らない馬鹿を言う者があります。思うにこの書生は日本に生まれてまだ十分に日本語を使ったことのない男でしょう。国の言葉はその国に物事が多くなる割合に従って次第に増加し、少しも不自由のないはずのものです。何はさておき、今の日本人は今の日本語を巧みに用いて弁舌の上達することに努めるべきです。
解説
日本語では議論ができないという主張が、短く退けられます。そう言う者は日本語を十分に使ったことがないのだろう、と。そして言葉の性質が示されます。国の言葉は物事が増えるに従って増えるのだから、足りなければ増えていく。道具のせいにして鍛えない態度への反論で、今ある言葉を巧みに使えという実践的な結論になっています。
この章句が説くこと
日本語道具責任転嫁増加鍛錬
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『学問のすゝめ』十編・前編のつづき、中津の旧友に贈る・日本の財貨を外国へ棄つることなりただ、今の学者の成業を待ち、この学者をして自国の用を便ぜしむるのほか、さらに手段あるべからず。すなわちこれ学者の身に引き受けたる職分なれば、その責め急なりと言うべし。今わが国内に雇い入れたる外国人は、わが学者未熟なるがゆえにしばらくその名代を勤めしむるものなり。今わが国内に外国の器品を買い入るるは、わが国の工業拙なるがゆえにしばらく銭と交易して用を便ずるものなり。この人を雇いこの品を買うがために金を費やすは、わが学術のいまだ彼に及ばざるがために日本の財貨を外国へ棄つることなり。国のためには惜しむべし。学者の身となりては慚ずべし。かつ人として前途の望みなかるべからず、望みあらざれば世に事を勉むる者なし。明日の幸を望んで今日の不幸をも慰むべし。来年の楽を望んで今年の苦をも忍ぶべし。昔日は世の事物みな旧格に制せられて有志の士といえども望みを養うべき目的なかりしが、今や然らず、この制限を一掃せしより後は、あたかも学者のために新世界を開きしがごとく、天下ところとして事をなすの地位あらざるはなし。
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