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学問のすゝめ / 十編・前編のつづき、中津の旧友に贈る・我は悉皆短にして彼は悉皆長なるがごとし

試みに見よ、方今、天下の形勢、文明はその名あれどもいまだその実を見ず、外の形は備われども内の精神は耗し。今のわが海陸軍をもって西洋諸国の兵と戦うべきや、けっして戦うべからず。今のわが学術をもって西洋人に教ゆべきや、けっして教ゆべきものなし。かえってこれを彼に学んでなおその及ばざるを恐るるのみ。外国に留学生あり、内国に雇いの教師あり、政府の省・寮・学校より、諸府諸港に至るまで、大概みな外国人を雇わざるものなし。あるいは私立の会社・学校の類といえども、新たに事を企つるものは必ずまず外国人を雇い、過分の給料を与えてこれに依頼するもの多し。彼の長を取りてわが短を補うとは人の口吻なれども、今の有様を見れば我は悉皆短にして彼は悉皆長なるがごとし。

書き下し

試みに見よ、方今、天下の形勢、文明はその名あれどもいまだその実を見ず、外の形は備われども内の精神は耗し。今のわが海陸軍をもって西洋諸国の兵と戦うべきや、けっして戦うべからず。今のわが学術をもって西洋人に教ゆべきや、けっして教ゆべきものなし。かえってこれを彼に学んでなおその及ばざるを恐るるのみ。外国に留学生あり、内国に雇いの教師あり、政府の省・寮・学校より、諸府諸港に至るまで、大概みな外国人を雇わざるものなし。あるいは私立の会社・学校の類といえども、新たに事を企つるものは必ずまず外国人を雇い、過分の給料を与えてこれに依頼するもの多し。彼の長を取りてわが短を補うとは人の口吻なれども、今の有様を見れば我は悉皆短にして彼は悉皆長なるがごとし。

現代語訳

試しに見なさい。今の天下の形勢は、文明という名はあってもまだその実を見ず、外の形は備わっても内の精神はすり減っています。今のわが海陸軍で西洋諸国の兵と戦えるでしょうか、決して戦えません。今のわが学術で西洋人に教えられるでしょうか、決して教えられるものはありません。かえってこれを彼らに学んでなお及ばないことを恐れるだけです。外国に留学生があり、国内に雇いの教師があり、政府の各省や学校から諸都市や港に至るまで、おおむねみな外国人を雇わないところはありません。民間の会社や学校の類でも、新たに事を企てるものは必ずまず外国人を雇い、過分の給料を与えてこれに頼るものが多い。彼の長所を取ってわが短所を補うとは人の言い草ですが、今のありさまを見れば、我はことごとく短所で、彼はことごとく長所であるかのようです。

解説

現状が容赦なく点検されます。戦えるか、教えられるか、と二つ問うて、どちらも否と答える。そのうえで外国人雇用の広がりが列挙されます。政府も民間も、新しいことを始めるならまず外国人を雇う。そして言い回しが突かれる。長所を取って短所を補うと言うが、実態はこちらが全部短所ではないか、と。便利な言葉で現実を糊塗するのを許さない目が働いています。

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