師導古典を学びたいすべての人に

学問のすゝめ / 十三編・怨望の人間に害あるを論ず・人の言路は開かざるべからず

右御殿女中の一例を見ても大抵、世の中の有様は推して知るべし。人間最大の禍は怨望にありて、怨望の源は窮より生ずるものなれば、人の言路は開かざるべからず、人の業作は妨ぐべからず。試みに英亜諸国の有様とわが日本の有様とを比較して、その人間の交際において、いずれかよくかの御殿の趣を脱したるやと問う者あらば、余輩は今の日本を目してまったく御殿に異ならずと言うにはあらざれども、その境界を去るの遠近を論ずれば、日本はなおこれに近く、英亜諸国はこれを去ること遠しと言わざるを得ず。英亜の人民、貪吝驕奢ならざるにあらず、粗野乱暴ならざるにあらず、あるいは詐る者あり、あるいは欺く者ありて、その風俗けっして善美ならずといえども、ただ怨望隠伏の一事に至りては必ずわが国と趣を異にするところあるべし。

書き下し

右御殿女中の一例を見ても大抵、世の中の有様は推して知るべし。人間最大の禍は怨望にありて、怨望の源は窮より生ずるものなれば、人の言路は開かざるべからず、人の業作は妨ぐべからず。試みに英亜諸国の有様とわが日本の有様とを比較して、その人間の交際において、いずれかよくかの御殿の趣を脱したるやと問う者あらば、余輩は今の日本を目してまったく御殿に異ならずと言うにはあらざれども、その境界を去るの遠近を論ずれば、日本はなおこれに近く、英亜諸国はこれを去ること遠しと言わざるを得ず。英亜の人民、貪吝驕奢ならざるにあらず、粗野乱暴ならざるにあらず、あるいは詐る者あり、あるいは欺く者ありて、その風俗けっして善美ならずといえども、ただ怨望隠伏の一事に至りては必ずわが国と趣を異にするところあるべし。

現代語訳

右の御殿女中の一例を見ても、だいたい世の中のありさまは推して知れます。人の最大の禍いは怨望にあり、怨望の源は窮から生じるのですから、人の言論の道は開かねばならず、人の仕事は妨げてはなりません。試みにイギリスやアメリカのありさまとわが日本のありさまを比べて、その人の交わりにおいてどちらがよくあの御殿の趣を脱しているかと問う者があれば、私は今の日本をまったく御殿と変わらないと言うのではありませんが、その境地を去る遠近を論じれば、日本はなおこれに近く、イギリスやアメリカはこれを去ること遠いと言わざるを得ません。イギリスやアメリカの人民も貪欲や驕りがないのではなく、粗野や乱暴がないのでもなく、偽る者もあり欺く者もあって、その風俗は決して立派ではありませんが、ただ怨望が隠れ潜むという一事に至っては、必ずわが国と趣を異にするところがあるでしょう。

解説

処方が二つに絞られます。言論の道を開くこと、仕事を妨げないこと。これが怨望の源を断つ方法です。そして比較が行われますが、単純な西洋礼賛にはなっていません。向こうにも貪欲も乱暴も偽りもあると認めたうえで、怨望が隠れ潜むという一点だけが違う、と限定します。比較の相手を美化しないことで、指摘したい一点がかえって際立つ書き方です。

この章句が説くこと

処方言路業作比較隠伏

関連する章句

この一句を、あなたの毎日に。

古典の教えを、今の状況に当てはめて考えてみる——師導があなたの学びと選択を支えます。

師導で古典を学ぶ
いま登録すると、7日間すべての機能を無料でお試しいただけます。 無料ではじめる