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学問のすゝめ / 十六編・手近く独立を守ること・朋友の品物はわが買物の見本となり

なおこれよりはなはだしきものあり。前の例は品物の支配を受くる者なりといえども、その品物は自家の物なれば、一身一家の内にて奴隷の境界に居るまでのことなれども、ここにまた他人の物に使役せらるるの例あり。かの人がこの洋服を作りたるゆえ我もこれを作ると言い、隣に二階の家を建てたるがゆえにわれは三階を建つると言い、朋友の品物はわが買物の見本となり、同僚の噂咄はわが注文書の腹稿となり、色の黒き大の男が節くれ立ちたるその指に金の指輪はちと不似合いと自分も心に知りながら、これも西洋人の風なりとて無理に了簡を取り直して銭を奮発し、極暑の晩景、浴後には浴衣に団扇と思えども、西洋人の真似なれば我慢を張りて筒袖に汗を流し、ひたすら他人の好尚に同じからんことを心配するのみ。

書き下し

なおこれよりはなはだしきものあり。前の例は品物の支配を受くる者なりといえども、その品物は自家の物なれば、一身一家の内にて奴隷の境界に居るまでのことなれども、ここにまた他人の物に使役せらるるの例あり。かの人がこの洋服を作りたるゆえ我もこれを作ると言い、隣に二階の家を建てたるがゆえにわれは三階を建つると言い、朋友の品物はわが買物の見本となり、同僚の噂咄はわが注文書の腹稿となり、色の黒き大の男が節くれ立ちたるその指に金の指輪はちと不似合いと自分も心に知りながら、これも西洋人の風なりとて無理に了簡を取り直して銭を奮発し、極暑の晩景、浴後には浴衣に団扇と思えども、西洋人の真似なれば我慢を張りて筒袖に汗を流し、ひたすら他人の好尚に同じからんことを心配するのみ。

現代語訳

なおこれより甚だしいものがあります。前の例は品物の支配を受ける者ですが、その品物は自分の家の物ですから、一身一家の内で奴隷の境遇にいるまでのことです。しかしここにまた他人の物に使われる例があります。あの人がこの洋服を作ったから自分も作ると言い、隣に二階の家が建ったから自分は三階を建てると言い、友人の品物が自分の買い物の見本となり、同僚の噂話が自分の注文書の下書きとなり、色の黒い大男が節くれ立った指に金の指輪はちょっと不似合いだと自分でも知りながら、これも西洋人の風だと無理に考えを取り直して銭を奮発し、真夏の夕暮れ、湯上がりには浴衣に団扇と思いながら、西洋人の真似だからと我慢して筒袖で汗を流し、ひたすら他人の好みに合わせることばかり心配しています。

解説

支配される相手が、自分の物から他人の物へ移ります。隣が二階なら三階、友人の持ち物が買い物の見本、同僚の噂が注文書の下書き。基準が全部よそにあります。そして情景が具体的です。似合わないと自分で分かっている指輪をはめ、湯上がりに浴衣と団扇を我慢して筒袖で汗をかく。自分の快適さより他人の目を選んでいる姿が、可笑しくも痛ましく描かれています。

この章句が説くこと

他人基準見栄同調我慢

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