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学問のすゝめ / 十五編・事物を疑いて取捨を断ずること・日本の人はあたかも盗賊と雑居するがごとし

西洋人は家の内外に錠を用うること少なく、旅中に人足を雇うて荷物を持たしめ、その行李に慥かなる錠前なきものといえども常に物を盗まるることなく、あるいは大工、左官等のごとき職人に命じて普請を請け負わしむるに、約定書の密なるものを用いずして、後日に至り、その約定につき公事訴訟を起こすことまれなれども、日本人は家内の一室ごとに締りを設けて座右の手箱に至るまでも錠を卸し、普請請負いの約定書等には一字一句を争うて紙に記せども、なおかつ物を盗まれ、あるいは違約等の事につき、裁判所に訴うること多き風ならば、論者また歎息していわん。「ありがたきかな耶蘇の聖教、気の毒なるかなパガン外教の人民、日本の人はあたかも盗賊と雑居するがごとし、これをかの西洋諸国自由正直の風俗に比すれば万々同日の論にあらず、実に聖教の行なわるる国土こそ道に遺を拾わずと言うべけれ」と。

新字:西洋人は家の内外に錠を用うること少なく、旅中に人足を雇うて荷物を持たしめ、その行李に慥かなる錠前なきものといえども常に物を盗まるることなく、あるいは大工、左官等のごとき職人に命じて普請を請け負わしむるに、約定書の密なるものを用いずして、後日に至り、その約定につき公事訴訟を起こすことまれなれども、日本人は家内の一室ごとに締りを設けて座右の手箱に至るまでも錠を卸し、普請請負いの約定書等には一字一句を争うて紙に記せども、なおかつ物を盗まれ、あるいは違約等の事につき、裁判所に訴うること多き風ならば、論者また嘆息していわん。「ありがたきかな耶蘇の聖教、気の毒なるかなパガン外教の人民、日本の人はあたかも盗賊と雑居するがごとし、これをかの西洋諸国自由正直の風俗に比すれば万々同日の論にあらず、実に聖教の行なわるる国土こそ道に遺を拾わずと言うべけれ」と。

書き下し

西洋人は家の内外に錠を用うること少なく、旅中に人足を雇うて荷物を持たしめ、その行李に慥かなる錠前なきものといえども常に物を盗まるることなく、あるいは大工、左官等のごとき職人に命じて普請を請け負わしむるに、約定書の密なるものを用いずして、後日に至り、その約定につき公事訴訟を起こすことまれなれども、日本人は家内の一室ごとに締りを設けて座右の手箱に至るまでも錠を卸し、普請請負いの約定書等には一字一句を争うて紙に記せども、なおかつ物を盗まれ、あるいは違約等の事につき、裁判所に訴うること多き風ならば、論者また歎息していわん。「ありがたきかな耶蘇の聖教、気の毒なるかなパガン外教の人民、日本の人はあたかも盗賊と雑居するがごとし、これをかの西洋諸国自由正直の風俗に比すれば万々同日の論にあらず、実に聖教の行なわるる国土こそ道に遺を拾わずと言うべけれ」と。

現代語訳

西洋人が家の内外に錠をあまり使わず、旅先で人足を雇って荷物を持たせ、その荷に確かな錠前がなくても常に物を盗まれることがなく、あるいは大工や左官などの職人に命じて工事を請け負わせるのに、細かな契約書を用いず、後日その約束について訴訟を起こすことがまれであるのに、日本人は家の部屋ごとに締まりを設け、手元の手箱にまで錠を下ろし、請負の契約書には一字一句を争って紙に記しながら、なお物を盗まれ、あるいは違約などで裁判所に訴えることが多い風だとすれば、論者はまた嘆息して言うでしょう。ありがたいかなキリストの聖なる教え、気の毒なるかな異教の人民、日本の人はまるで盗賊と雑居しているようだ。これをあの西洋諸国の自由で正直な風俗に比べればまったく同列に論じられない。実に聖なる教えが行われる国土こそ、道に落ちた物を拾わないと言うべきだ、と。

解説

入れ替えが信用の問題にまで及びます。錠を掛けず契約書も薄いのに盗まれないのは、西洋の側にあれば宗教の力とされる。逆に鍵を増やし契約を細かくする側は、盗賊と雑居していると言われます。制度や習慣の違いが、信仰の優劣に読み替えられる過程が示されており、文化の比較が宗教の優劣論にすり替わる危うさが突かれています。

この章句が説くこと

信用契約宗教すり替え

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