師導古典を学びたいすべての人に

学問のすゝめ / 十五編・事物を疑いて取捨を断ずること・一議したがって出ずれば一説したがってこれを駁し

今の人事において男子は外を務め婦人は内を治むるとてその関係ほとんど天然なるがごとくなれども、スチュアルト・ミルは『婦人論』を著わして、万古一定動かすべからざるのこの習慣を破らんことを試みたり。英国の経済家に自由法を悦ぶ者多くして、これを信ずる輩はあたかももって世界普通の定法のごとくに認むれども、アメリカの学者は保護法を唱えて自国一種の経済論を主張する者あり。一議したがって出ずれば一説したがってこれを駁し、異説争論その極まるところを知るべからず。これをかのアジヤ諸州の人民が、虚誕妄説を軽信して巫蠱神仏に惑溺し、あるいはいわゆる聖賢者の言を聞きて一時にこれに和するのみならず、万世の後に至りてなおその言の範囲を脱すること能わざるものに比すれば、その品行の優劣、心志の勇怯、もとより年を同じゅうして語るべからざるなり。

書き下し

今の人事において男子は外を務め婦人は内を治むるとてその関係ほとんど天然なるがごとくなれども、スチュアルト・ミルは『婦人論』を著わして、万古一定動かすべからざるのこの習慣を破らんことを試みたり。英国の経済家に自由法を悦ぶ者多くして、これを信ずる輩はあたかももって世界普通の定法のごとくに認むれども、アメリカの学者は保護法を唱えて自国一種の経済論を主張する者あり。一議したがって出ずれば一説したがってこれを駁し、異説争論その極まるところを知るべからず。これをかのアジヤ諸州の人民が、虚誕妄説を軽信して巫蠱神仏に惑溺し、あるいはいわゆる聖賢者の言を聞きて一時にこれに和するのみならず、万世の後に至りてなおその言の範囲を脱すること能わざるものに比すれば、その品行の優劣、心志の勇怯、もとより年を同じゅうして語るべからざるなり。

現代語訳

今の人の事において、男子は外を務め婦人は内を治めるといって、その関係はほとんど自然のようですが、ジョン・スチュアート・ミルは『婦人論』を著して、万古不動のこの習慣を破ろうと試みました。イギリスの経済家に自由貿易の法を喜ぶ者が多く、これを信じる人々はまるで世界共通の定法のように認めていますが、アメリカの学者は保護貿易を唱えて自国独自の経済論を主張する者があります。一つの議が出ればそれに応じて一つの説がこれを論駁し、異説と争論はその極まるところを知りません。これをあのアジア諸州の人民が、でたらめな説を軽々しく信じて祈祷や神仏に溺れ、あるいはいわゆる聖賢の言葉を聞いて一時にこれに同調するだけでなく、万世の後に至ってもなおその言葉の枠を脱することができないのに比べれば、その品行の優劣、志の勇敢さと臆病さは、もとより同列に語ることはできません。

解説

疑いの実例が同時代に及びます。ミルの婦人論が挙げられ、自然と思われている男女の分業さえ検討の対象になる、と。そして自由貿易と保護貿易の対立が紹介されます。定説があってもすぐ反論が出るのが西洋だ、と。対比されるのは、聖賢の言葉から万世を経ても出られない状態です。争論があること自体を健全さの指標とする見方が示されています。

この章句が説くこと

婦人論貿易争論健全対比

関連する章句

この一句を、あなたの毎日に。

古典の教えを、今の状況に当てはめて考えてみる——師導があなたの学びと選択を支えます。

師導で古典を学ぶ
いま登録すると、7日間すべての機能を無料でお試しいただけます。 無料ではじめる