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学問のすゝめ / 十四編・心事の棚卸し・隣家の帳合いに助言して自家に盗賊の入るを知らず

天下を治むるを知りて身を修むるを知らざる者は、隣家の帳合いに助言して自家に盗賊の入るを知らざるがごとし。口に流行の日新を唱えて心に見るところなくわが一身の何ものたるをも考えざる者は、売品の名を知りて値段を知らざるもののごとし。これらの不都合は現に今の世に珍しからず。その原因は、ただ流れ渡りにこの世を渡りて、かつてその身の有様に注意することなく、生来今日に至るまでわが身は何事をなしたるや。今は何事をなせるや。今後は何事をなすべきや」と、みずからその身を点検せざるの罪なり。ゆえにいわく、商売の有様を明らかにして後日の見込みを定むるものは帳面の総勘定なり、一身の有様を明らかにして後日の方向を立つるものは智徳事業の棚卸しなり。

書き下し

天下を治むるを知りて身を修むるを知らざる者は、隣家の帳合いに助言して自家に盗賊の入るを知らざるがごとし。口に流行の日新を唱えて心に見るところなくわが一身の何ものたるをも考えざる者は、売品の名を知りて値段を知らざるもののごとし。これらの不都合は現に今の世に珍しからず。その原因は、ただ流れ渡りにこの世を渡りて、かつてその身の有様に注意することなく、生来今日に至るまでわが身は何事をなしたるや。今は何事をなせるや。今後は何事をなすべきや」と、みずからその身を点検せざるの罪なり。ゆえにいわく、商売の有様を明らかにして後日の見込みを定むるものは帳面の総勘定なり、一身の有様を明らかにして後日の方向を立つるものは智徳事業の棚卸しなり。

現代語訳

天下を治めることを知って自分を修めることを知らない者は、隣家の帳合いに助言して自分の家に盗賊が入るのを知らないようなものです。口で流行の日新を唱えながら心に見るところがなく、自分自身が何者であるかも考えない者は、売り物の名を知って値段を知らないようなものです。これらの不都合は現に今の世に珍しくありません。その原因は、ただ流れのままにこの世を渡って、かつて自分のありさまに注意することなく、生まれてから今日に至るまで自分は何をしたのか、今は何をしているのか、今後は何をすべきか、と自らその身を点検しない罪です。ですから言います。商売のありさまを明らかにして後日の見込みを定めるものは帳面の総勘定であり、一身のありさまを明らかにして後日の方向を立てるものは智徳事業の棚卸しです。

解説

二つの比喩で締められます。他人の帳簿に助言しながら自分の家の盗難に気づかない人、商品の名は知っていても値段を知らない人。批評はできるが自分の現状は把握していない、という姿です。そして三つの問いが提示されます。これまで何をしたか、今は何をしているか、これから何をすべきか。帳簿が商売の方向を決めるように、棚卸しが人生の方向を決める、と結ばれます。
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この章句が説くこと

批評自己把握三問方向結論

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