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学問のすゝめ / 十四編・心事の棚卸し・冬の差入りに蚊帷を買い込むがごとし

その一、二を挙ぐれば、「貧は士の常、尽忠報国」などとて、みだりに百姓の米を食い潰して得意の色をなし、今日に至りて事実に困る者は、舶来の小銃あるを知らずして刀剣を仕入れ、一時の利を得て、残品に後悔するがごとし。和漢の古書のみを研究して西洋日新の学を顧みず、古を信じて疑わざりし者は、過ぎたる夏の景気を忘れずして冬の差入りに蚊帷を買い込むがごとし。青年の書生いまだ学問も熟せずしてにわかに小官を求め、一生の間、等外に徘徊するは、半ば仕立てたる衣服を質に入れて流すがごとし。地理、歴史の初歩をも知らず、日用の手紙を書くこともむずかしくして、みだりに高尚の書を読まんとし、開巻五、六葉を見てまた他の書を求むるは、元手なしに商売をはじめて日に業を変ずるがごとし、和漢洋の書を読めども天下国家の形勢を知らず一身一家の生計にも苦しむ者は、算盤を持たずして万屋の商売をなすがごとし。

書き下し

その一、二を挙ぐれば、「貧は士の常、尽忠報国」などとて、みだりに百姓の米を食い潰して得意の色をなし、今日に至りて事実に困る者は、舶来の小銃あるを知らずして刀剣を仕入れ、一時の利を得て、残品に後悔するがごとし。和漢の古書のみを研究して西洋日新の学を顧みず、古を信じて疑わざりし者は、過ぎたる夏の景気を忘れずして冬の差入りに蚊帷を買い込むがごとし。青年の書生いまだ学問も熟せずしてにわかに小官を求め、一生の間、等外に徘徊するは、半ば仕立てたる衣服を質に入れて流すがごとし。地理、歴史の初歩をも知らず、日用の手紙を書くこともむずかしくして、みだりに高尚の書を読まんとし、開巻五、六葉を見てまた他の書を求むるは、元手なしに商売をはじめて日に業を変ずるがごとし、和漢洋の書を読めども天下国家の形勢を知らず一身一家の生計にも苦しむ者は、算盤を持たずして万屋の商売をなすがごとし。

現代語訳

その一つ二つを挙げれば、貧は士の常、忠を尽くし国に報いるなどと言って、みだりに百姓の米を食い潰して得意になり、今日になって実際に困る者は、舶来の小銃があることを知らずに刀剣を仕入れ、一時の利を得て残品に後悔するようなものです。和漢の古い書物だけを研究して西洋の日々新しい学を顧みず、古いものを信じて疑わなかった者は、過ぎた夏の景気を忘れられずに冬の初めに蚊帳を買い込むようなものです。青年の書生がまだ学問も熟さないうちに急に小さな官職を求め、一生の間、等外の身分をうろつくのは、半分仕立てた衣服を質に入れて流すようなものです。地理や歴史の初歩も知らず、日用の手紙を書くことも難しいのに、むやみに高尚な書を読もうとし、五、六枚めくってまた他の書を求めるのは、元手なしに商売を始めて日ごとに業種を変えるようなものです。和漢洋の書を読んでも天下国家の形勢を知らず、一身一家の生計にも苦しむ者は、算盤を持たずに何でも屋の商売をするようなものです。

解説

棚卸しの結果が、商売の失敗の形で列挙されます。刀剣の在庫、冬の蚊帳、質に流した仕立てかけの衣服、元手なしの商売替え、算盤を持たない何でも屋。どれも一目で損だと分かる形に置き換えられているのが手際です。時代遅れの学問や中途半端な就職が、在庫や仕入れの失敗として可視化され、自分の選択を帳簿の目で見る練習になっています。

この章句が説くこと

在庫時代遅れ中途元手可視化

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