学問のすゝめ / 十四編・心事の棚卸し・時を計ること寛に過ぎ事を視ること易に過ぎたる罪
田舎の書生、国を出ずるときは、難苦を嘗めて三年のうちに成業とみずから期したる者、よくその心の約束を践みたるや。無理な才覚をして渇望したる原書を求め、三ヵ月の間にこれを読み終わらんと約したる者、はたしてよくその約のごとくしたるや。有志の士君子「某が政府に出ずれば、この事務もかくのごとく処し、かの改革もかくのごとく処し、半年の間に政府の面目を改むべし」とて、再三建白のうえようやく本望を達して出仕の後、はたしてその前日の心事に背かざるや。貧書生が「われに万両の金あれば、明日より日本国中の門並みに学校を設けて家に不学の輩なからしめん」と言う者を、今日良縁によりて三井・鴻ノ池の養子たらしむることあらば、はたしてその言のごとくなるべきや。この類の夢想を計れば枚挙に遑あらず。みな事の難易と時の長短とを比較せずして、時を計ること寛に過ぎ、事を視ること易に過ぎたる罪なり。
書き下し
田舎の書生、国を出ずるときは、難苦を嘗めて三年のうちに成業とみずから期したる者、よくその心の約束を践みたるや。無理な才覚をして渇望したる原書を求め、三ヵ月の間にこれを読み終わらんと約したる者、はたしてよくその約のごとくしたるや。有志の士君子「某が政府に出ずれば、この事務もかくのごとく処し、かの改革もかくのごとく処し、半年の間に政府の面目を改むべし」とて、再三建白のうえようやく本望を達して出仕の後、はたしてその前日の心事に背かざるや。貧書生が「われに万両の金あれば、明日より日本国中の門並みに学校を設けて家に不学の輩なからしめん」と言う者を、今日良縁によりて三井・鴻ノ池の養子たらしむることあらば、はたしてその言のごとくなるべきや。この類の夢想を計れば枚挙に遑あらず。みな事の難易と時の長短とを比較せずして、時を計ること寛に過ぎ、事を視ること易に過ぎたる罪なり。
現代語訳
田舎の書生が国を出るときに、苦労を嘗めて三年のうちに学業を成すと自ら期した者が、よくその心の約束を果たしたでしょうか。無理な工面をして待ち望んだ原書を求め、三か月のうちに読み終えると約束した者が、果たしてその通りにしたでしょうか。志ある士が、自分が政府に出ればこの事務もこう処理し、あの改革もこう処理して、半年の間に政府の面目を改めようと言い、再三の建白の末にようやく本望を達して出仕した後、果たして以前の志に背いていないでしょうか。貧しい書生が、自分に万両の金があれば、明日から日本国中の家ごとに学校を設けて学ばない者をなくそう、と言う者を、今日よい縁で三井や鴻池の養子にしたら、果たしてその言葉の通りになるでしょうか。この類の夢想を数えれば切りがありません。みな事の難易と時の長短を比べず、時を計ることが甘すぎ、事を見ることが易しすぎた罪です。
解説

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『大和俗訓』巻之一・為学上されども芸は末なり、道義の学は本なり。芸をひたすら好めば、必学の志をうばはれて失ふものなり。いはんや私欲のなぐさみ好みにまかするをや。いましむべし。志を立つれば、たとへば西国の人のあづまへ行かんとおもひ立ちて、日々に行くに、其間昼夜あづまへ行かんと思ふ心は、念々つねにやまず。是あづまへ行く志たつなり。かくの如くなれば、つひに志す所に行きとどかずといふ事なし。道に志すも亦かくの如くなるべし。
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論語・公冶長篇顔淵・季路侍る。子曰く、「盍ぞ各々爾の志を言わざる。」子路曰く、「願わくは車馬衣裘、朋友と共にし、之を敝るとも憾み無からん。」顔淵曰く、「願わくは善に伐ること無く、労を施すこと無からん。」子路曰く、「願わくは子の志を聞かん。」子曰く、「老者は之を安んじ、朋友は之を信じ、少者は之を懐けん。」