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学問のすゝめ / 十四編・心事の棚卸し・年月を経て後に考うれば

人の世を渡る有様を見るに、心に思うよりも案外に悪をなし、心に思うよりも案外に愚を働き、心に企つるよりも案外に功を成さざるものなり。いかなる悪人にても、生涯の間勉強して悪事のみをなさんと思う者はなけれども、物に当たり事に接して、ふと悪念を生じ、わが身みずから悪と知りながら、いろいろに身勝手なる説をつけて、しいてみずから慰むる者あり。またあるいは物事に当たりて行なうときはけっしてこれを悪事と思わず、毫も心に恥ずるところなきのみならず、一心一向に善きことと信じて、他人の異見などあれば、かえってこれを怒り、これを怨むほどにありしことにても、年月を経て後に考うれば、大いにわが不行届きにて心に恥じ入ることあり。

書き下し

人の世を渡る有様を見るに、心に思うよりも案外に悪をなし、心に思うよりも案外に愚を働き、心に企つるよりも案外に功を成さざるものなり。いかなる悪人にても、生涯の間勉強して悪事のみをなさんと思う者はなけれども、物に当たり事に接して、ふと悪念を生じ、わが身みずから悪と知りながら、いろいろに身勝手なる説をつけて、しいてみずから慰むる者あり。またあるいは物事に当たりて行なうときはけっしてこれを悪事と思わず、毫も心に恥ずるところなきのみならず、一心一向に善きことと信じて、他人の異見などあれば、かえってこれを怒り、これを怨むほどにありしことにても、年月を経て後に考うれば、大いにわが不行届きにて心に恥じ入ることあり。

現代語訳

人が世を渡るありさまを見ると、心に思うよりも案外に悪をなし、心に思うよりも案外に愚かを働き、心に企てるよりも案外に功を成さないものです。どんな悪人でも、生涯の間努めて悪事ばかりをしようと思う者はいませんが、物に当たり事に接して、ふと悪い考えを生じ、自分でも悪いと知りながら、いろいろと身勝手な理屈をつけて、無理に自分を慰める者があります。またあるいは、その物事を行うときには決してこれを悪事と思わず、少しも心に恥じるところがないばかりか、ひたすら良いことだと信じて、他人の意見などがあればかえってこれを怒り、これを怨むほどであった事でも、年月を経た後に考えれば、大いに自分の不行き届きだったと心から恥じ入ることがあります。

解説

十四編が始まり、自己点検の話に入ります。まず人の常態が三つ並べられます。思うより悪をなし、思うより愚かを働き、企てるより功を成さない。いずれも自己評価と実際のずれです。そして二つの型が示されます。悪いと知りつつ理屈をつけて自分を慰める場合と、そのときは正しいと信じていて後から恥じる場合。後者のほうが厄介で、次の段からの棚卸しの必要につながります。
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この章句が説くこと

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