学問のすゝめ / 十二編・人の品行は高尚ならざるべからざるの論・甲は有名の文国にして乙は武勇の大国
譬えばインドの国体旧ならざるにあらず、その文物の開けたるは西洋紀元の前数千年にありて、理論の精密にして玄妙なるは、おそらくは今の西洋諸国の理学に比して恥ずるなきもの多かるべし。また在昔トルコの政府も、威権もっとも強盛にして、礼楽征伐の法、斉整ならざるはなし。君長賢明ならざるにあらず、廷臣方正ならざるにあらず。人口の衆多なること兵士の武勇なること近国に比類なくして、一時はその名誉を四方に燿かしたることあり。ゆえにインドとトルコとを評すれば、甲は有名の文国にして、乙は武勇の大国と言わざるを得ず。
書き下し
譬えばインドの国体旧ならざるにあらず、その文物の開けたるは西洋紀元の前数千年にありて、理論の精密にして玄妙なるは、おそらくは今の西洋諸国の理学に比して恥ずるなきもの多かるべし。また在昔トルコの政府も、威権もっとも強盛にして、礼楽征伐の法、斉整ならざるはなし。君長賢明ならざるにあらず、廷臣方正ならざるにあらず。人口の衆多なること兵士の武勇なること近国に比類なくして、一時はその名誉を四方に燿かしたることあり。ゆえにインドとトルコとを評すれば、甲は有名の文国にして、乙は武勇の大国と言わざるを得ず。
現代語訳
たとえばインドの国体は古くないわけではなく、その文物が開けたのは西洋紀元の前数千年であって、理論の精密で奥深いことは、おそらく今の西洋諸国の理学に比べて恥じないものが多いでしょう。また昔のトルコの政府も、威権が最も強く盛んで、礼楽や征伐の法が整わないものはありませんでした。君主が賢明でなかったのではなく、廷臣が正しくなかったのでもありません。人口の多さも兵士の勇敢さも近隣の国に比べるものがなく、一時はその名誉を四方に輝かせたことがあります。ですからインドとトルコを評すれば、前者は名高い文の国、後者は武勇の大国と言わざるを得ません。
解説
二つの大国の全盛が、公平に讃えられます。インドの思想は西洋の理学に恥じないほど精密で、トルコは君主も廷臣も優れ、人口も武勇も比類がなかった、と。貶めるための前振りではなく、実際に高い水準にあったことを認めるところから始まります。文と武という二つの型の頂点が示され、それでも何が起きたかという次の段の落差が、いっそう重く響く構成です。
この章句が説くこと
インドトルコ全盛文武前提
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