学問のすゝめ / 十一編・名分をもって偽君子を生ずるの論・自主自由のなま噛りにて無政無法の騒動
しかるに半解半知の飛び揚がりものが、名分は無用と聞きて、早くすでにその職分を忘れ、人民の地位にいて政府の法を破り、政府の命をもって人民の産業に手を出だし、兵隊が政を議してみずから師を起こし、文官が腕の力に負けて武官の指図に任ずる等のことあらば、これこそ国の大乱ならん。自主自由のなま噛りにて無政無法の騒動なるべし。名分と職分とは文字こそ相似たれ、その趣意はまったく別物なり。学者これを誤り認むることなかれ。
書き下し
しかるに半解半知の飛び揚がりものが、名分は無用と聞きて、早くすでにその職分を忘れ、人民の地位にいて政府の法を破り、政府の命をもって人民の産業に手を出だし、兵隊が政を議してみずから師を起こし、文官が腕の力に負けて武官の指図に任ずる等のことあらば、これこそ国の大乱ならん。自主自由のなま噛りにて無政無法の騒動なるべし。名分と職分とは文字こそ相似たれ、その趣意はまったく別物なり。学者これを誤り認むることなかれ。
現代語訳
ところが生半可な理解の跳ね上がり者が、名分は無用だと聞いて、早くもその職分を忘れ、人民の地位にいて政府の法を破り、政府の名で人民の産業に手を出し、兵隊が政治を議して自ら軍を起こし、文官が腕力に負けて武官の指図に任せるようなことがあれば、これこそ国の大乱でしょう。自主自由の生かじりによる無政無法の騒動です。名分と職分とは文字こそ似ていますが、その趣旨はまったく別物です。学者はこれを誤って認めてはなりません。
解説
十一編の締めで、誤読への警告が置かれます。名分は無用だと聞いて職分まで捨てる者が出ることを見越しているのです。例が具体的で、兵隊が政治を議して軍を起こす、文官が武官の指図に従う、と。後の時代に実際に起きることを言い当てたようにも読めます。自由の生かじりが無法を招く、という指摘で、解放を説く書物が自ら歯止めを書き込んだ一段です。
この章句が説くこと
誤読警告歯止め無法混同
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