学問のすゝめ / 十一編・名分をもって偽君子を生ずるの論・名分とは虚飾の名目を言うなり
右の議論によれば名分は丸つぶれの話なれども、念のためここに一言を足さん。名分とは虚飾の名目を言うなり。虚名とあれば上下貴賤悉皆無用のものなれども、この虚飾の名目と実の職分とを入れ替えにして、職分をさえ守ればこの名分も差しつかえあることなし。すなわち政府は一国の帳場にして、人民を支配するの職分あり。人民は一国の金主にして、国用を給するの職分あり。文官の職分は政法を議定するにあり。武官の職分は命ずるところに赴きて戦うにあり。このほか、学者にも町人にもおのおの定まりたる職分あらざるはなし。
書き下し
右の議論によれば名分は丸つぶれの話なれども、念のためここに一言を足さん。名分とは虚飾の名目を言うなり。虚名とあれば上下貴賤悉皆無用のものなれども、この虚飾の名目と実の職分とを入れ替えにして、職分をさえ守ればこの名分も差しつかえあることなし。すなわち政府は一国の帳場にして、人民を支配するの職分あり。人民は一国の金主にして、国用を給するの職分あり。文官の職分は政法を議定するにあり。武官の職分は命ずるところに赴きて戦うにあり。このほか、学者にも町人にもおのおの定まりたる職分あらざるはなし。
現代語訳
右の議論によれば名分は丸つぶれの話ですが、念のためここに一言を足しましょう。名分とは虚飾の名目を言うのです。虚名であれば上下貴賤すべて無用のものですが、この虚飾の名目と実際の職分とを入れ替えて、職分さえ守ればこの名分も差し支えありません。すなわち政府は一国の帳場であって、人民を支配する職分があります。人民は一国の出資者であって、国の費用をまかなう職分があります。文官の職分は政治と法を議し定めることにあります。武官の職分は命じられたところへ赴いて戦うことにあります。このほか、学者にも町人にも、それぞれ定まった職分がないものはありません。
解説
批判の後始末として、名分と職分が区別されます。名分は虚飾の名目だから無用だが、これを実際の職分と入れ替えれば差し支えない、と。そして具体的に割り振られます。政府は帳場、人民は出資者、文官は議定、武官は戦闘。上下ではなく役割として並ぶのが要点で、序列を壊した後に何が残るのかという問いに、はっきり答えを出しています。
この章句が説くこと
名分職分区別役割代替
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