学問のすゝめ / 三編・一身独立して一国独立すること・権義あればしたがって職分あり
もとより国の政をなす者は政府にて、その支配を受くる者は人民なれども、こはただ便利のために双方の持ち場を分かちたるのみ。一国全体の面目にかかわることに至りては、人民の職分として政府のみに国を預け置き、傍よりこれを見物するの理あらんや。すでに日本国の誰、英国の誰と、その姓名の肩書に国の名あればその国に住居し、起居眠食、自由自在なるの権義あり。すでにその権義あればまたしたがってその職分なかるべからず。
書き下し
もとより国の政をなす者は政府にて、その支配を受くる者は人民なれども、こはただ便利のために双方の持ち場を分かちたるのみ。一国全体の面目にかかわることに至りては、人民の職分として政府のみに国を預け置き、傍よりこれを見物するの理あらんや。すでに日本国の誰、英国の誰と、その姓名の肩書に国の名あれば、その国に住居し、起居眠食、自由自在なるの権義あり。すでにその権義あれば、またしたがってその職分なかるべからず。
現代語訳
もとより国の政治を行う者は政府で、その支配を受ける者は人民ですが、これはただ便宜のために双方の持ち場を分けただけです。一国全体の面目に関わることに至っては、人民の職分として、政府だけに国を預けておいて、傍からこれを見物する道理がありましょうか。すでに日本国の誰、イギリスの誰と、自分の名前の肩書に国の名がある以上、その国に住み、起き臥しし眠り食べる自由自在の権利があります。すでにその権利がある以上、それに伴う職分がなければなりません。
解説
政府と人民の分業が、便宜にすぎないと念を押されます。持ち場を分けただけで、国そのものを預けたわけではない。傍から見物する道理があろうか、という反語が効いています。そして権利と職分が対になることが示される。肩書に国の名がついている時点で権利があり、権利がある以上は務めもある。当事者性の根拠を、身分ではなく所属の事実に求めた一段です。
この章句が説くこと
分業職分権利当事者便宜
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