学問のすゝめ / 十一編・名分をもって偽君子を生ずるの論・その買物の棒先を切るとは
大名の家来によき役儀を勤むる者あれば、その家に銭のできるは何ゆえぞ。定まりたる家禄と定まりたる役料にて一銭の余財も入るべき理なし。しかるに出入差引きして余りあるははなはだ怪しむべし。いわゆる役得にもせよ、賄賂にもせよ、旦那の物をせしめたるに相違はあらず。そのもっともいちじるしきものを挙げて言えば、普請奉行が大工に割前を促し、会計の役人が出入りの町人より付け届けを取るがごときは、三百諸侯の家にほとんど定式の法のごとし。旦那のためには御馬前に討死さえせんと言いし忠臣義士が、その買物の棒先を切るとはあまり不都合ならずや。金箔付きの偽君子と言うべし。
書き下し
大名の家来によき役儀を勤むる者あれば、その家に銭のできるは何ゆえぞ。定まりたる家禄と定まりたる役料にて一銭の余財も入るべき理なし。しかるに出入差引きして余りあるははなはだ怪しむべし。いわゆる役得にもせよ、賄賂にもせよ、旦那の物をせしめたるに相違はあらず。そのもっともいちじるしきものを挙げて言えば、普請奉行が大工に割前を促し、会計の役人が出入りの町人より付け届けを取るがごときは、三百諸侯の家にほとんど定式の法のごとし。旦那のためには御馬前に討死さえせんと言いし忠臣義士が、その買物の棒先を切るとはあまり不都合ならずや。金箔付きの偽君子と言うべし。
現代語訳
大名の家来でよい役目を務める者があれば、その家に銭ができるのはなぜでしょうか。定まった家禄と定まった役料では一銭の余りも入る道理がありません。それなのに収支を差し引いて余りがあるのは非常に怪しむべきです。いわゆる役得にせよ賄賂にせよ、旦那の物をせしめたのに違いありません。その最も著しいものを挙げれば、普請奉行が大工に割り前をせがみ、会計の役人が出入りの町人から付け届けを取るようなことは、三百諸侯の家でほとんど決まりごとのようになっています。旦那のためには馬前で討死さえしようと言った忠臣義士が、その買い物の上前をはねるとはあまりに不都合ではありませんか。金箔付きの偽君子と言うべきです。
解説
この章句が説くこと
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