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学問のすゝめ / 十編・前編のつづき、中津の旧友に贈る・学問は米を搗きながらもできるものなり

しかるに聞く、近日中律の旧友、学問につく者のうち、まれには学業いまだ半ばならずして早くすでに生計の道を求むる人ありと。生計もとより軽んずべからず。あるいはその人の才に長短もあることなれば、後来の方向を定むるはまことに可なりといえども、もしこの風を互いに相倣い、ただ生計をこれ争うの勢いに至らば、俊英の少年はその実を未熟に残うの恐れなきにあらず。本人のためにも悲しむべし、天下のためにも惜しむべし。かつ生計難しといえども、よく一家の世帯を計れば、早く一時に銭を取りこれを費やして小安を買わんより、力を労して倹約を守り大成の時を待つに若かず。学問に入らば大いに学問すべし。農たらば大農となれ、商たらば大商となれ。学者小安に安んずるなかれ。粗衣粗食、寒暑を憚らず、米も搗くべし、薪も割るべし。学問は米を搗きながらもできるものなり。人間の食物は西洋料理に限らず、麦飯を食らい味噌汁を啜り、もって文明の事を学ぶべきなり。

書き下し

しかるに聞く、近日中律の旧友、学問につく者のうち、まれには学業いまだ半ばならずして早くすでに生計の道を求むる人ありと。生計もとより軽んずべからず。あるいはその人の才に長短もあることなれば、後来の方向を定むるはまことに可なりといえども、もしこの風を互いに相倣い、ただ生計をこれ争うの勢いに至らば、俊英の少年はその実を未熟に残うの恐れなきにあらず。本人のためにも悲しむべし、天下のためにも惜しむべし。かつ生計難しといえども、よく一家の世帯を計れば、早く一時に銭を取りこれを費やして小安を買わんより、力を労して倹約を守り大成の時を待つに若かず。学問に入らば大いに学問すべし。農たらば大農となれ、商たらば大商となれ。学者小安に安んずるなかれ。粗衣粗食、寒暑を憚らず、米も搗くべし、薪も割るべし。学問は米を搗きながらもできるものなり。人間の食物は西洋料理に限らず、麦飯を食らい味噌汁を啜り、もって文明の事を学ぶべきなり。

現代語訳

ところが聞くところによれば、近ごろ故郷の旧友で学問につく者のうち、まれには学業がまだ半ばなのに早くも生計の道を求める人があるといいます。生計はもとより軽んじてはなりません。あるいはその人の才に長短もあることですから、将来の方向を定めるのはまことに結構ですが、もしこの風習を互いに真似て、ただ生計ばかりを争う勢いになれば、優れた若者がその実を未熟なまま損なう恐れがないとは言えません。本人のためにも悲しむべきで、天下のためにも惜しむべきです。しかも生計は難しいとはいえ、よく一家の暮らしを計れば、早く一時に銭を取ってこれを使い小さな安らぎを買うより、力を労して倹約を守り大成の時を待つほうがまさります。学問に入るなら大いに学問すべきです。農民なら大農となれ、商人なら大商となれ。学者は小さな安らぎに安んじてはなりません。粗末な衣、粗末な食で、寒暑をいとわず、米も搗けばよい、薪も割ればよい。学問は米を搗きながらでもできるものです。人の食物は西洋料理に限らず、麦飯を食べ味噌汁をすすって、文明の事を学ぶべきです。

解説

十編の結びで、故郷の後輩に直接語りかけます。学業半ばで稼ぎに走る者が出ていると聞いた、という具体的な心配です。生計を軽んじるなと断ったうえで、早く銭を取って小さな安らぎを買うより待てと勧めます。そして最後が名高い一節です。米も搗け、薪も割れ、学問は米を搗きながらでもできる、麦飯と味噌汁で文明を学べ、と。清貧を美化するのではなく、学び続ける方法として示されています。
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この章句が説くこと

生計忍耐大成粗食両立

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