学問のすゝめ / 七編・国民の職分を論ず・文明とは人の智徳を進め
元来、文明とは、人の智徳を進め、人々身みずからその身を支配して世間相交わり、相害することもなく害せらるることもなく、おのおのその権義を達して一般の安全繁盛を致すを言うなり。さればかの師にもせよ敵討ちにもせよ、はたしてこの文明の趣意に叶い、この師に勝ちてこの敵を滅ぼし、この敵討ちを遂げてこの主人の面目を立つれば、必ずこの世は文明に赴き、商売も行なわれ工業も起こりて、一般の安全繁盛を致すべしとの目的あらば、討死も敵討ちも尤ものようなれども、事柄においてけっしてその目的あるべからず。
書き下し
元来、文明とは、人の智徳を進め、人々身みずからその身を支配して世間相交わり、相害することもなく害せらるることもなく、おのおのその権義を達して一般の安全繁盛を致すを言うなり。さればかの師にもせよ敵討ちにもせよ、はたしてこの文明の趣意に叶い、この師に勝ちてこの敵を滅ぼし、この敵討ちを遂げてこの主人の面目を立つれば、必ずこの世は文明に赴き、商売も行なわれ工業も起こりて、一般の安全繁盛を致すべしとの目的あらば、討死も敵討ちも尤ものようなれども、事柄においてけっしてその目的あるべからず。
現代語訳
もともと文明とは、人の智恵と徳を進め、人々が自分自身でその身を支配して世間と交わり、害することもなく害されることもなく、それぞれその権利を達して全体の安全と繁栄をもたらすことを言います。ですからあの軍にせよ敵討ちにせよ、本当にこの文明の趣旨に叶い、この軍に勝ってこの敵を滅ぼし、この敵討ちを遂げてこの主人の面目を立てれば、必ずこの世は文明へ向かい、商売も行われ工業も起こって全体の安全と繁栄をもたらす、という目的があるのなら、討死も敵討ちももっともなように見えます。しかし事柄として決してその目的があるはずがありません。
解説
文明の定義がここで与えられます。智恵と徳が進み、各人が自分を支配し、害し合わずに権利を達して全体が栄えること。設備でも制度でもなく、人と人の関わり方として定義されているのが特徴です。そしてこの定義が物差しとして使われます。討死や敵討ちがこの状態に近づけるなら認めよう、と条件つきで譲ってみせ、しかし事柄として無理だと退ける。基準を先に示してから判定する手順です。
この章句が説くこと
文明定義物差し判定目的
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