学問のすゝめ / 七編・国民の職分を論ず・暴をもって暴に代え愚をもって愚に代う
ゆえに一朝の妄動にてこれを倒すも、暴をもって暴に代え、愚をもって愚に代うるのみ。また内乱の源を尋ぬれば、もと人の不人情を悪みて起こしたるものなり。しかるにおよそ人間世界に内乱ほど不人情なるものはなし。世間朋友の交わりを破るはもちろん、はなはだしきは親子相殺し兄弟相敵し、家を焼き人を屠り、その悪事至らざるところなし。かかる恐ろしき有様にて人の心はますます残忍に陥り、ほとんど禽獣とも言うべき挙動をなしながら、かえって旧の政府よりもよき政を行ない寛大なる法を施して天下の人情を厚きに導かんと欲するか。不都合なる考えと言うべし。
書き下し
ゆえに一朝の妄動にてこれを倒すも、暴をもって暴に代え、愚をもって愚に代うるのみ。また内乱の源を尋ぬれば、もと人の不人情を悪みて起こしたるものなり。しかるにおよそ人間世界に内乱ほど不人情なるものはなし。世間朋友の交わりを破るはもちろん、はなはだしきは親子相殺し兄弟相敵し、家を焼き人を屠り、その悪事至らざるところなし。かかる恐ろしき有様にて人の心はますます残忍に陥り、ほとんど禽獣とも言うべき挙動をなしながら、かえって旧の政府よりもよき政を行ない寛大なる法を施して天下の人情を厚きに導かんと欲するか。不都合なる考えと言うべし。
現代語訳
ですから一時の軽はずみでこれを倒しても、暴をもって暴に代え、愚をもって愚に代えるだけです。また内乱の源を尋ねれば、もとは人の不人情を憎んで起こしたものです。ところがおよそ人間の世界に内乱ほど不人情なものはありません。世間の友人の交わりを破るのはもちろん、甚だしきは親子が殺し合い兄弟が敵対し、家を焼き人を屠り、その悪事は至らないところがありません。こんな恐ろしいありさまで人の心はますます残忍になり、ほとんど獣とも言うべき振る舞いをしながら、かえって元の政府よりも良い政治を行い寛大な法を施して天下の人情を厚いほうへ導こうというのでしょうか。不都合な考えと言うべきです。
解説
武力の道が最後まで追い詰められます。倒したところで暴が暴に代わり愚が愚に代わるだけ、という対句が印象に残ります。さらに動機と手段の矛盾が突かれる。人の不人情を憎んで起こした内乱が、親子が殺し合うという最も不人情な事態を生むのです。獣のような振る舞いをしておいて、その後に人情の厚い世を作れるはずがない。目的と手段は切り離せないという指摘になっています。
この章句が説くこと
内乱矛盾手段目的暴力
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