学問のすゝめ / 七編・国民の職分を論ず・ただ力の強弱のみを比較せざるべからず
第二 力をもって政府に敵対するはもとより一人の能くするところにあらず、必ず徒党を結ばざるべからず。すなわちこれ内乱の師なり。けっしてこれを上策というべからず。すでに師を起こして政府に敵するときは、事の理非曲直はしばらく論ぜずして、ただ力の強弱のみを比較せざるべからず。しかるに古今内乱の歴史を見れば、人民の力はつねに政府よりも弱きものなり。また内乱を起こせば、従来その国に行なわれたる政治の仕組みをひとたび覆えすはもとより論を俟たず。しかるにその旧の政府なるもの、たといいかなる悪政府にても、おのずからまた善政良法あるにあらざれば政府の名をもって若干の年月を渡るべき理なし。
書き下し
第二 力をもって政府に敵対するはもとより一人の能くするところにあらず、必ず徒党を結ばざるべからず。すなわちこれ内乱の師なり。けっしてこれを上策というべからず。すでに師を起こして政府に敵するときは、事の理非曲直はしばらく論ぜずして、ただ力の強弱のみを比較せざるべからず。しかるに古今内乱の歴史を見れば、人民の力はつねに政府よりも弱きものなり。また内乱を起こせば、従来その国に行なわれたる政治の仕組みをひとたび覆えすはもとより論を俟たず。しかるにその旧の政府なるもの、たといいかなる悪政府にても、おのずからまた善政良法あるにあらざれば政府の名をもって若干の年月を渡るべき理なし。
現代語訳
第二に、力をもって政府に敵対するのは、もとより一人でできることではなく、必ず徒党を結ばねばなりません。すなわちこれが内乱の軍です。決してこれを上策とは言えません。すでに軍を起こして政府に敵対するときは、事の理非曲直はしばらく論ぜず、ただ力の強弱だけを比べねばなりません。ところが古今の内乱の歴史を見れば、人民の力は常に政府よりも弱いものです。また内乱を起こせば、従来その国で行われてきた政治の仕組みを一度覆すのは言うまでもありません。ところがその古い政府というものは、たとえどんな悪い政府であっても、自然とまた善い政治や良い法があるのでなければ、政府の名で何年もの歳月を過ごせる道理はないのです。
解説
この章句が説くこと
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『学問のすゝめ』七編・国民の職分を論ず・暴をもって暴に代え愚をもって愚に代うゆえに一朝の妄動にてこれを倒すも、暴をもって暴に代え、愚をもって愚に代うるのみ。また内乱の源を尋ぬれば、もと人の不人情を悪みて起こしたるものなり。しかるにおよそ人間世界に内乱ほど不人情なるものはなし。世間朋友の交わりを破るはもちろん、はなはだしきは親子相殺し兄弟相敵し、家を焼き人を屠り、その悪事至らざるところなし。かかる恐ろしき有様にて人の心はますます残忍に陥り、ほとんど禽獣とも言うべき挙動をなしながら、かえって旧の政府よりもよき政を行ない寛大なる法を施して天下の人情を厚きに導かんと欲するか。不都合なる考えと言うべし。
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『学問のすゝめ』七編・国民の職分を論ず・人民の分としてなすべき挙動はただ三ヵ条右のごとく人民も政府もおのおのその分限を尽くして互いに居り合うときは申し分もなきことなれども、あるいは然らずして政府なるものその分限を越えて暴政を行なうことあり。ここに至りて人民の分としてなすべき挙動はただ三ヵ条あるのみ。すなわち節を屈して政府に従うか、力をもって政府に敵対するか、正理を守りて身を棄つるか、この三ヵ条なり。
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『学問のすゝめ』七編・国民の職分を論ず・必ず同情相憐れむの心を生ずべしその目的とするところは政府の不正を止むるの趣意なるがゆえに、政府の処置、正に帰すれば議論もまたともにやむべし。また力をもって政府に敵すれば、政府は必ず怒りの気を生じ、みずからその悪を顧みずしてかえってますます暴威を張り、その非を遂げんとするの勢いに至るべしといえども、静かに正理を唱うる者に対しては、たとい暴政府といえどもその役人もまた同国の人類なれば、正者の理を守りて身を棄つるを見て必ず同情相憐れむの心を生ずべし。すでに他を憐れむの心を生ずれば、おのずから過ちを悔い、おのずから胆を落として、必ず改心するに至るべし。
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『学問のすゝめ』七編・国民の職分を論ず・かつ力を尽くしかつ堪忍して時節を待つべきついにその商社の分散するに至らば、その損亡は商社百人一様の引受けなるべし。愚もまたはなはだしきものと言うべし。ゆえに国法は不正不便なりといえども、その不正不便を口実に設けてこれを破るの理なし。もし事実において不正不便の箇条あらば、一国の支配人たる政府に説き勧めて静かにその法を改めしむべし。政府もしわが説に従わずんば、かつ力を尽くしかつ堪忍して時節を待つべきなり。
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