学問のすゝめ / 二編・人は同等なること・暴政は人民の無智が招く禍
これすなわち世に暴政府のある所以なり。ひとりわが旧幕府のみならず、アジヤ諸国古来みな然り。されば一国の暴政は必ずしも暴君暴吏の所為のみにあらず、その実は人民の無智をもってみずから招く禍なり。他人にけしかけられて暗殺を企つる者もあり、新法を誤解して一揆を起こす者あり、強訴を名として金持の家を毀ち、酒を飲み銭を盗む者あり。その挙動はほとんど人間の所業と思われず。かかる賊民を取り扱うには、釈迦も孔子も名案なきは必定、ぜひとも苛刻の政を行なうことなるべし。ゆえにいわく、人民もし暴政を避けんと欲せば、すみやかに学問に志しみずから才徳を高くして、政府と相対し同位同等の地位に登らざるべからず。これすなわち余輩の勧むる学問の趣意なり。
書き下し
これすなわち世に暴政府のある所以なり。ひとりわが旧幕府のみならず、アジヤ諸国古来みな然り。されば一国の暴政は必ずしも暴君暴吏の所為のみにあらず、その実は人民の無智をもってみずから招く禍なり。他人にけしかけられて暗殺を企つる者もあり、新法を誤解して一揆を起こす者あり、強訴を名として金持の家を毀ち、酒を飲み銭を盗む者あり。その挙動はほとんど人間の所業と思われず。かかる賊民を取り扱うには、釈迦も孔子も名案なきは必定、ぜひとも苛刻の政を行なうことなるべし。ゆえにいわく、人民もし暴政を避けんと欲せば、すみやかに学問に志し、みずから才徳を高くして、政府と相対し同位同等の地位に登らざるべからず。これすなわち余輩の勧むる学問の趣意なり。
現代語訳
これこそ世に暴政府がある理由です。わが旧幕府だけでなく、アジアの諸国は昔からみなそうでした。ですから一国の暴政は、必ずしも暴君や横暴な役人の仕業だけではなく、実は人民の無知が自ら招いた禍です。他人にけしかけられて暗殺を企てる者もあり、新しい法を誤解して一揆を起こす者もあり、強訴を名目に金持ちの家を壊し、酒を飲み銭を盗む者もいます。その振る舞いはほとんど人間のすることとは思えません。このような賊のような民を扱うには、釈迦も孔子も名案がないのは確かで、どうしても厳しい政治を行うことになるでしょう。ですから言います。人民がもし暴政を避けたければ、すみやかに学問を志し、自ら才と徳を高くして、政府と向き合って同じ位、同等の地位に登らなければなりません。これこそ私たちが勧める学問の趣旨です。
解説
この章句が説くこと
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