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学問のすゝめ / 七編・国民の職分を論ず・支配人は酒を売らんとすれば

人民もしこの趣意を忘れて、政府の処置につきわが意に叶わずとて恣に議論を起こし、あるいは条約を破らんとし、あるいは師を起こさんとし、はなはだしきは一騎先駆け、自刃を携えて飛び出すなどの挙動に及ぶことあらば、国の政は一日も保つべからず。これを譬えばかの百人の商社兼ねて申し合せのうえ、社中の人物十人を選んで会社の支配人と定め置き、その支配人の処置につき、残り九十人の者どもわが意に叶わずとて銘々に商法を議し、支配人は酒を売らんとすれば九十人の者は牡丹餅を仕入れんとし、その評議区々にて、はなはだしきは一了簡をもって私に牡丹餅の取引きを始め、商社の法に背きて他人と争論に及ぶなどのことあらば、会社の商売は一日も行なわるべからず。

書き下し

人民もしこの趣意を忘れて、政府の処置につきわが意に叶わずとて恣に議論を起こし、あるいは条約を破らんとし、あるいは師を起こさんとし、はなはだしきは一騎先駆け、自刃を携えて飛び出すなどの挙動に及ぶことあらば、国の政は一日も保つべからず。これを譬えばかの百人の商社兼ねて申し合せのうえ、社中の人物十人を選んで会社の支配人と定め置き、その支配人の処置につき、残り九十人の者どもわが意に叶わずとて銘々に商法を議し、支配人は酒を売らんとすれば九十人の者は牡丹餅を仕入れんとし、その評議区々にて、はなはだしきは一了簡をもって私に牡丹餅の取引きを始め、商社の法に背きて他人と争論に及ぶなどのことあらば、会社の商売は一日も行なわるべからず。

現代語訳

人民がもしこの趣旨を忘れて、政府の処置が自分の意に叶わないからと勝手に議論を起こし、条約を破ろうとし、軍を起こそうとし、甚だしきは一騎先駆けして自分の刃物を携えて飛び出すような行動に及ぶことがあれば、国の政治は一日も保てません。これをたとえれば、あの百人の商社があらかじめ申し合わせて、仲間の中から十人を選んで会社の支配人と定めておきながら、その支配人の処置が自分の意に叶わないといって、残り九十人の者がめいめいに商売の方法を議論し、支配人が酒を売ろうとすれば九十人は牡丹餅を仕入れようとし、その意見はばらばらで、甚だしきは自分の考えで勝手に牡丹餅の取引を始め、商社の法に背いて他人と争うようなことがあれば、会社の商売は一日も成り立ちません。

解説

委任を破ったらどうなるかが、商社の比喩で描かれます。十人の支配人を選んでおきながら九十人が勝手に商売を始める図です。酒と牡丹餅という取り合わせが可笑しく、しかし言いたいことははっきりしています。選んだ以上は任せ、違うと思うなら手順を踏め、と。一騎先駆けして刃物を携えて飛び出す、という表現には幕末の記憶が重なっており、そこから会社の話へ落とす落差が効いています。

この章句が説くこと

委任逸脱商社比喩混乱

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