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学問のすゝめ / 六編・国法の貴きを論ず・法を立つるは勉めて簡なるを良とす

譬えば今往来に小便するは政府の禁制なり。しかるに人民みなこの禁令の貴きを知らずしてただ邏卒を恐るるのみ。あるいは日暮れなど邏卒のあらざるを窺いて法を破らんとし、はからずも見咎めらるることあればその罪に伏すといえども、本人の心中には貴き国法を犯したるがゆえに罰せらるるとは思わずして、ただ恐ろしき邏卒に逢いしをその日の不幸と思うのみ。実に歎かわしきことならずや。ゆえに政府にて法を立つるは勉めて簡なるを良とす。すでにこれを定めて法となすうえは必ず厳にその趣意を達せざるべからず。人民は政府の定めたる法を見て不便なりと思うことあらば、遠慮なくこれを論じて訴うべし。すでにこれを認めてその法の下に居るときは、私にその法を是非することなく謹んでこれを守らざるべからず。

新字:譬えば今往来に小便するは政府の禁制なり。しかるに人民みなこの禁令の貴きを知らずしてただ邏卒を恐るるのみ。あるいは日暮れなど邏卒のあらざるを窺いて法を破らんとし、はからずも見咎めらるることあればその罪に伏すといえども、本人の心中には貴き国法を犯したるがゆえに罰せらるるとは思わずして、ただ恐ろしき邏卒に逢いしをその日の不幸と思うのみ。実に嘆かわしきことならずや。ゆえに政府にて法を立つるは勉めて簡なるを良とす。すでにこれを定めて法となすうえは必ず厳にその趣意を達せざるべからず。人民は政府の定めたる法を見て不便なりと思うことあらば、遠慮なくこれを論じて訴うべし。すでにこれを認めてその法の下に居るときは、私にその法を是非することなく謹んでこれを守らざるべからず。

書き下し

譬えば今往来に小便するは政府の禁制なり。しかるに人民みなこの禁令の貴きを知らずしてただ邏卒を恐るるのみ。あるいは日暮れなど邏卒のあらざるを窺いて法を破らんとし、はからずも見咎めらるることあればその罪に伏すといえども、本人の心中には貴き国法を犯したるがゆえに罰せらるるとは思わずして、ただ恐ろしき邏卒に逢いしをその日の不幸と思うのみ。実に歎かわしきことならずや。ゆえに政府にて法を立つるは勉めて簡なるを良とす。すでにこれを定めて法となすうえは必ず厳にその趣意を達せざるべからず。人民は政府の定めたる法を見て不便なりと思うことあらば、遠慮なくこれを論じて訴うべし。すでにこれを認めてその法の下に居るときは、私にその法を是非することなく謹んでこれを守らざるべからず。

現代語訳

たとえば今、往来で小便をするのは政府の禁制です。ところが人民はみなこの禁令の尊さを知らず、ただ巡査を恐れるだけです。日暮れなど巡査がいないのを窺って法を破ろうとし、思いがけず見咎められることがあればその罪に服しますが、本人の心中では尊い国法を犯したから罰せられるとは思わず、ただ恐ろしい巡査に出会ったのをその日の不運と思うだけです。実に嘆かわしいことではありませんか。ですから政府が法を立てるのは、努めて簡素にするのがよい。すでにこれを定めて法とした上は、必ず厳格にその趣旨を通さねばなりません。人民は政府の定めた法を見て不便だと思うことがあれば、遠慮なくこれを論じて訴えるべきです。すでにこれを認めてその法の下にいるときは、勝手にその法の是非を言わず、謹んでこれを守らねばなりません。

解説

立小便という卑近な例で、法を恐れるのではなく人を恐れる姿が描かれます。捕まっても法を犯したとは思わず、運が悪かったと思うだけ。六編の冒頭で指摘された、政府は恐れるが法は知らないという姿が、日常の一場面として確認されます。そして処方が二つ示されます。政府は法を簡素にして厳格に通すこと、人民は不便なら訴え、従うと決めたなら守ること。双方に義務を課した対称的な結びです。

この章句が説くこと

禁令巡査簡素厳格訴え

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