学問のすゝめ / 六編・国法の貴きを論ず・暗殺をもってよく事をなしたるものなし
天に代わりて誅罰を行なうというつもりか。もしそのつもりならば、まず自分の身の有様を考えざるべからず。元来この国に居り、政府へ対していかなる約定を結びしや。「必ずその国法を守りて身の保護を被るべし」とこそ約束したることなるべし。もし国の政事につき不平の箇条を見いだし、国を害する人物ありと思わば、静かにこれを政府へ訴うべきはずなるに、政府を差し置き、みずから天に代わりて事をなすとは商売違いもまたはなはだしきものと言うべし。畢竟この類の人は、性質律儀なれども物事の理に暗く、国を患うるを知りて国を患うる所以の道を知らざる者なり。試みに見よ、天下古今の実験に、暗殺をもってよく事をなし世間の幸福を増したるものは、いまだかつてこれあらざるなり。
書き下し
天に代わりて誅罰を行なうというつもりか。もしそのつもりならば、まず自分の身の有様を考えざるべからず。元来この国に居り、政府へ対していかなる約定を結びしや。「必ずその国法を守りて身の保護を被るべし」とこそ約束したることなるべし。もし国の政事につき不平の箇条を見いだし、国を害する人物ありと思わば、静かにこれを政府へ訴うべきはずなるに、政府を差し置き、みずから天に代わりて事をなすとは商売違いもまたはなはだしきものと言うべし。畢竟この類の人は、性質律儀なれども物事の理に暗く、国を患うるを知りて国を患うる所以の道を知らざる者なり。試みに見よ、天下古今の実験に、暗殺をもってよく事をなし世間の幸福を増したるものは、いまだかつてこれあらざるなり。
現代語訳
天に代わって罰を行うというつもりでしょうか。もしそのつもりなら、まず自分の身のありさまを考えねばなりません。もともとこの国にいて、政府に対してどんな約束を結んだのか。必ずその国法を守って身の保護を受けます、と約束したはずです。もし国の政治について不平の箇条を見出し、国を害する人物がいると思うなら、静かにこれを政府へ訴えるべきはずなのに、政府を差し置いて自ら天に代わって事を行うとは、商売違いも甚だしいものと言うべきです。結局この類の人は、性質は律儀ですが物事の道理に暗く、国を憂えることを知って、国を憂える方法を知らない者です。試しに見なさい、天下古今の実証で、暗殺によってうまく事を成し、世間の幸福を増したものは、いまだかつてないのです。
解説

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