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学問のすゝめ / 六編・国法の貴きを論ず・親の敵は目の前に徘徊するも

右の理をもって考うれば敵討ちのよろしからざることも合点すべし。わが親を殺したる者はすなわちその国にて一人の人を殺したる公の罪人なり。この罪人を捕えて刑に処するは政府に限りたる職分にて、平人の関わるところにあらず。しかるにその殺されたる者の子なればとて、政府に代わりて私にこの公の罪人を殺すの理あらんや。差し出がましき挙動と言うべきのみならず、国民たるの職分を誤り、政府の約束に背くものと言うべし。もしこのことにつき、政府の処置よろしからずして罪人を贔屓するなどのことあらば、その不筋なる次第を政府に訴うべきのみ。なんらの事故あるもけっしてみずから手を出だすべからず。たとい親の敵は目の前に徘徊するも私にこれを殺すの理なし。

書き下し

右の理をもって考うれば敵討ちのよろしからざることも合点すべし。わが親を殺したる者はすなわちその国にて一人の人を殺したる公の罪人なり。この罪人を捕えて刑に処するは政府に限りたる職分にて、平人の関わるところにあらず。しかるにその殺されたる者の子なればとて、政府に代わりて私にこの公の罪人を殺すの理あらんや。差し出がましき挙動と言うべきのみならず、国民たるの職分を誤り、政府の約束に背くものと言うべし。もしこのことにつき、政府の処置よろしからずして罪人を贔屓するなどのことあらば、その不筋なる次第を政府に訴うべきのみ。なんらの事故あるもけっしてみずから手を出だすべからず。たとい親の敵は目の前に徘徊するも私にこれを殺すの理なし。

現代語訳

右の道理で考えれば、敵討ちがよくないことも納得できるでしょう。自分の親を殺した者は、その国で一人の人を殺した公の罪人です。この罪人を捕えて刑に処すのは政府に限られた職分であって、一般人の関わるところではありません。それなのに、殺された者の子だからといって、政府に代わって勝手にこの公の罪人を殺す道理がありましょうか。差し出がましい振る舞いと言うべきなだけでなく、国民としての職分を誤り、政府との約束に背くものと言うべきです。もしこの件について政府の処置がよくなく、罪人をひいきするようなことがあれば、その筋の通らない次第を政府に訴えるべきだけです。どんな事情があっても、決して自分で手を出してはなりません。たとえ親の敵が目の前をうろついていても、勝手にこれを殺す道理はありません。

解説

論理が敵討ちに適用されます。親を殺した者は自分の敵である前に、国にとっての罪人だという見方の転換が要です。遺族であることは、裁く権限の根拠にはならない。感情の正当性と権限の有無を切り離しています。そして不満の受け皿も示される。処置が不当なら訴えよ、と。武士の美徳とされてきた行為を、約束違反として退けるこの一段は、当時の読者には相当に挑発的だったはずです。
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この章句が説くこと

敵討ち遺族権限感情訴え

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