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学問のすゝめ / 六編・国法の貴きを論ず・賊の罪を罰するの趣意にあらず

譬えばわが家に強盗の入り来たりて、家内の者を威し金を奪わんとすることあらん。この時に当たり、家の主人たる者の職分は、この事の次第を政府に訴え、政府の処置を待つべきはずなれども、事火急にして出訴の間合いもなく、かれこれするうちにかの強盗はすでに土蔵へ這入りて金を持ち出さんとするの勢いあり。これを止めんとすれば主人の命も危き場合なるゆえ、やむを得ず家内申し合わせて私にこれを防ぎ、当座の取り計らいにてこの強盗を捕え置き、しかる後に政府へ訴え出ずるなり。これを捕うるにつきては、あるいは棒を用い、あるいは刃物を用い、あるいは賊の身に疵つくることもあるべし、あるいはその足を打ち折ることもあるべし、事急なるときは鉄砲をもって打ち殺すこともあるべしといえども、結局主人たる者は、わが生命を護り、わが家財を守るために一時の取り計らいをなしたるのみにて、けっして賊の無礼を咎め、その罪を罰するの趣意にあらず。

書き下し

譬えばわが家に強盗の入り来たりて、家内の者を威し金を奪わんとすることあらん。この時に当たり、家の主人たる者の職分は、この事の次第を政府に訴え、政府の処置を待つべきはずなれども、事火急にして出訴の間合いもなく、かれこれするうちにかの強盗はすでに土蔵へ這入りて金を持ち出さんとするの勢いあり。これを止めんとすれば主人の命も危き場合なるゆえ、やむを得ず家内申し合わせて私にこれを防ぎ、当座の取り計らいにてこの強盗を捕え置き、しかる後に政府へ訴え出ずるなり。これを捕うるにつきては、あるいは棒を用い、あるいは刃物を用い、あるいは賊の身に疵つくることもあるべし、あるいはその足を打ち折ることもあるべし、事急なるときは鉄砲をもって打ち殺すこともあるべしといえども、結局主人たる者は、わが生命を護り、わが家財を守るために一時の取り計らいをなしたるのみにて、けっして賊の無礼を咎め、その罪を罰するの趣意にあらず。

現代語訳

たとえば自分の家に強盗が入ってきて、家の者を脅して金を奪おうとすることがあるとします。このとき、家の主人の職分は、この次第を政府に訴えて政府の処置を待つべきはずですが、事は急を要して訴え出る間もなく、そうこうするうちにその強盗はすでに土蔵へ入り込んで金を持ち出そうとする勢いです。これを止めようとすれば主人の命も危ういので、やむを得ず家の者が申し合わせて自分たちでこれを防ぎ、その場の処置としてこの強盗を捕えておき、その後で政府へ訴え出るのです。これを捕えるにあたっては、棒を用いることも刃物を用いることもあり、賊の体に傷をつけることも、その足を打ち折ることもあるでしょう。事が急なときは鉄砲で撃ち殺すこともあるでしょう。しかし結局、主人たる者は自分の生命を守り、自分の家財を守るために一時の処置をしただけであって、決して賊の無礼を咎め、その罪を罰する趣旨ではありません。

解説

強盗を例に、許される実力行使の範囲が具体的に示されます。訴える暇がなければ自分たちで防いでよく、傷をつけても足を折っても、場合によっては撃ってもよい。かなり広く認められています。しかし最後の一行が要です。それは身を守るための処置であって、罰を与える行為ではない、と。同じ行為に見えても目的が違えば性質が違うという区別で、次の段の厳しい結論を支える土台になっています。

この章句が説くこと

正当防衛範囲目的区別処置

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