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学問のすゝめ / 五編・明治七年一月一日の詞・いわゆるミッヅル・カラッスなる者

右に論ずるところをもって考うれば、国の文明は上政府より起こるべからず、下小民より生ずべからず、必ずその中間より興りて衆庶の向かうところを示し、政府と並び立ちてはじめて成功を期すべきなり。西洋諸国の史類を案ずるに、商売・工業の道、一として政府の創造せしものなし、その本はみな中等の地位にある学者の心匠に成りしもののみ。蒸気機関はワットの発明なり、鉄道はステフェンソンの工夫なり、はじめて経済の定則を論じ商売の法を一変したるはアダム・スミスの功なり。この諸大家はいわゆるミッヅル・カラッスなる者にて、国の執政にあらず、また力役の小民にあらず、まさに国人の中等に位し、智力をもって一世を指揮したる者なり。その工夫発明、まず一人の心に成れば、これを公にして実地に施すには私立の社友を結び、ますますその事を盛大にして人民無量の幸福を万世に遺すなり。この間に当たり政府の義務は、ただその事を妨げずして適宜に行なわれしめ、人心の向かうところを察してこれを保護するのみ。

書き下し

右に論ずるところをもって考うれば、国の文明は上政府より起こるべからず、下小民より生ずべからず、必ずその中間より興りて衆庶の向かうところを示し、政府と並び立ちてはじめて成功を期すべきなり。西洋諸国の史類を案ずるに、商売・工業の道、一として政府の創造せしものなし、その本はみな中等の地位にある学者の心匠に成りしもののみ。蒸気機関はワットの発明なり、鉄道はステフェンソンの工夫なり、はじめて経済の定則を論じ商売の法を一変したるはアダム・スミスの功なり。この諸大家はいわゆるミッヅル・カラッスなる者にて、国の執政にあらず、また力役の小民にあらず、まさに国人の中等に位し、智力をもって一世を指揮したる者なり。その工夫発明、まず一人の心に成れば、これを公にして実地に施すには私立の社友を結び、ますますその事を盛大にして人民無量の幸福を万世に遺すなり。この間に当たり政府の義務は、ただその事を妨げずして適宜に行なわれしめ、人心の向かうところを察してこれを保護するのみ。

現代語訳

右に論じたところから考えれば、国の文明は上の政府から起こるものでなく、下の小民から生まれるものでもありません。必ずその中間から興って人々の向かう方向を示し、政府と並び立ってはじめて成功を期待できるのです。西洋諸国の歴史を調べると、商売や工業の道は一つとして政府が創り出したものがなく、その根本はみな中くらいの地位にある学者の心の工夫から生まれたものだけです。蒸気機関はワットの発明であり、鉄道はスティーブンソンの工夫であり、はじめて経済の法則を論じ商売のやり方を一変させたのはアダム・スミスの功績です。この大家たちはいわゆるミドルクラスであって、国の執政ではなく、また力仕事の庶民でもない。まさに国民の中間に位置し、知力によって一世を導いた者です。その工夫や発明は、まず一人の心に生まれ、それを世に出して実地に施すには民間の同志を結び、ますますその事業を盛大にして、人民に無限の幸福を万世に残すのです。そしてこの間、政府の義務はただその事を妨げずに適宜行わせ、人心の向かうところを察してこれを保護するだけです。

解説

誰が文明を起こすのかに答えが出ます。上でも下でもなく中間、すなわち中等の地位にある学者だ、と。ワット、スティーブンソン、アダム・スミスと具体名が挙がり、いずれも政府の事業ではないことが示されます。一人の工夫を同志を結んで事業にする、という道筋も明確です。そして政府の役割は妨げず保護すること、と限定される。四編の私立論が、西洋の実例で裏づけられた形です。

この章句が説くこと

中間民間発明同志役割

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