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学問のすゝめ / 四編・付録・芸をもって口を糊するは難きにあらず

四にいわく、「私立せんと欲する人物あるも、官途を離るれば他に活計の道なし」と。答えていわく、「この言は士君子の言うべきにあらず。すでにみずから学者と唱えて天下の事を患うる者、豈無芸の人物あらんや。芸をもって口を糊するは難きにあらず。かつ官にありて公務を司るも私にいて業を営むも、その難易、異なるの理なし。もし官の事務易くしてその利益私の営業よりも多きことあらば、すなわちその利益は働きの実に過ぎたるものと言うべし。実に過ぐるの利を貪るは君子のなさざるところなり。無芸無能、僥倖によりて官途につき、みだりに給料を貪りて奢侈の資となし、戯れに天下のことを談ずる者はわが輩の友にあらず」

書き下し

四にいわく、「私立せんと欲する人物あるも、官途を離るれば他に活計の道なし」と。答えていわく、「この言は士君子の言うべきにあらず。すでにみずから学者と唱えて天下の事を患うる者、あに無芸の人物あらんや。芸をもって口を糊するは難きにあらず。かつ官にありて公務を司るも、私にいて業を営むも、その難易、異なるの理なし。もし官の事務易くして、その利益、私の営業よりも多きことあらば、すなわちその利益は働きの実に過ぎたるものと言うべし。実に過ぐるの利を貪るは君子のなさざるところなり。無芸無能、僥倖によりて官途につき、みだりに給料を貪りて奢侈の資となし、戯れに天下のことを談ずる者は、わが輩の友にあらず」。

現代語訳

四つ目はこうです。民間に立とうと思う人物がいても、官職を離れれば他に生計の道がない、と。答えて言います。この言葉は立派な人の言うべきことではありません。すでに自ら学者と名乗って天下のことを憂える者に、どうして芸のない人物がありましょうか。芸によって口を糊するのは難しいことではありません。しかも官にあって公務を司るのも、民間で業を営むのも、その難易に違いはありません。もし官の事務が楽で、その利益が民間の営業より多いなら、その利益は働きの実質を超えたものと言うべきです。実質を超える利を貪るのは君子のしないことです。芸もなく能力もなく、まぐれで官職につき、むやみに給料を貪って贅沢の元手とし、戯れに天下のことを談じる者は、私の友ではありません。

解説

生計の不安への答えで、四編がもっとも厳しくなる箇所です。学者を名乗るなら芸があるはずだ、と退ける。そして官と民の難易は同じで、もし官が楽で実入りが多いなら、それは働きに見合わない利だと言う。最後は決別の言葉です。まぐれで職を得て給料を貪り天下を論じる者は友ではない。自分の身の置き所を、覚悟として言い切った一段です。

この章句が説くこと

生計対価覚悟決別

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