学問のすゝめ / 四編・学者の職分を論ず・政府の頂門に一針を加う
そもそも事をなすに、これを命ずるはこれを諭すに若かず、これを諭すはわれよりその実の例を示すに若かず。然りしこうして政府はただ命ずるの権あるのみ、これを諭して実の例を示すは私の事なれば、わが輩まず私立の地位を占め、あるいは学術を講じ、あるいは商売に従事し、あるいは法律を議し、あるいは書を著わし、あるいは新聞紙を出版するなど、およそ国民たるの分限に越えざることは忌諱を憚らずしてこれを行ない、固く法を守りて正しく事を処し、あるいは政令信ならずして曲を被ることあらば、わが地位を屈せずしてこれを論じ、あたかも政府の頂門に一針を加え、旧弊を除きて民権を恢復せんこと方今至急の要務なるべし。
書き下し
そもそも事をなすに、これを命ずるはこれを諭すに若かず、これを諭すは、われよりその実の例を示すに若かず。然りしこうして政府はただ命ずるの権あるのみ、これを諭して実の例を示すは私の事なれば、わが輩まず私立の地位を占め、あるいは学術を講じ、あるいは商売に従事し、あるいは法律を議し、あるいは書を著わし、あるいは新聞紙を出版するなど、およそ国民たるの分限に越えざることは忌諱を憚らずしてこれを行ない、固く法を守りて正しく事を処し、あるいは政令信ならずして曲を被ることあらば、わが地位を屈せずしてこれを論じ、あたかも政府の頂門に一針を加え、旧弊を除きて民権を恢復せんこと、方今至急の要務なるべし。
現代語訳
そもそも事を行うのに、命じるのは諭すに及ばず、諭すのは自分から実例を示すに及びません。そして政府はただ命じる権限があるだけで、諭して実例を示すのは民間の仕事ですから、私たちはまず私立の地位を占めて、学術を講じ、商売に従事し、法律を議し、書物を著し、新聞を出版するなど、およそ国民としての分を越えないことは、嫌がられるのを憚らずに行い、固く法を守って正しく事を処理し、もし政令が信用ならず不当な扱いを受けることがあれば、自分の地位を曲げずにこれを論じ、まるで政府の脳天に一本の針を刺すように、古い弊害を除いて民の権利を回復することが、今の急務でしょう。
解説
三つの手段が順位づけられます。命じる、諭す、実例を示す。下ほど効くという順で、実例を示すのが最上です。そして民間でやるべきことが五つ列挙される。学術、商売、法律、著述、新聞。第五段で挙げた足りない三つと重なります。政府の頂門に一針を加える、という表現が痛快で、批判の役割を民間に置いた宣言になっています。
この章句が説くこと
実例私立批判順位急務
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