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学問のすゝめ / 四編・学者の職分を論ず・ブリテンの独立保つべきや

事に疑いあらざれば問いのよって起こるべき理なし。今試みに英国に行き、「ブリテンの独立保つべきや否や」と言いてこれを問わば、人みな笑いて答うる者なかるべし。その答うる者なきはなんぞや、これを疑わざればなり。しからばすなわちわが国文明の有様、今日をもって昨日に比すればあるいは進歩せしに似たることあるも、その結局に至りてはいまだ一点の疑いあるを免れず。いやしくもこの国に生まれて日本人の名ある者は、これに寒心せざるを得んや。今わが輩もこの国に生まれて日本人の名あり、すでにその名あればまたおのおのその分を明らかにして尽くすところなかるべからず。もとより政の字の義に限りたることをなすは政府の任なれども、人間の事務には政府の関わるべからざるものもまた多し。

書き下し

事に疑いあらざれば、問いのよって起こるべき理なし。今試みに英国に行き、「ブリテンの独立保つべきや否や」と言いてこれを問わば、人みな笑いて答うる者なかるべし。その答うる者なきはなんぞや、これを疑わざればなり。しからばすなわち、わが国文明の有様、今日をもって昨日に比すればあるいは進歩せしに似たることあるも、その結局に至りてはいまだ一点の疑いあるを免れず。いやしくもこの国に生まれて日本人の名ある者は、これに寒心せざるを得んや。今わが輩もこの国に生まれて日本人の名あり、すでにその名あれば、またおのおのその分を明らかにして尽くすところなかるべからず。もとより政の字の義に限りたることをなすは政府の任なれども、人間の事務には政府の関わるべからざるものもまた多し。

現代語訳

事柄に疑いがなければ、問いが起こる理由はありません。今試みにイギリスへ行って、ブリテンの独立は保てるかどうか、と問えば、人はみな笑って答える者はいないでしょう。答える者がいないのはなぜか。それを疑っていないからです。であれば、わが国の文明の有様は、今日を昨日と比べれば進歩したように見えることはあっても、その結末に至ってはまだ一点の疑いを免れません。仮にもこの国に生まれて日本人の名がある者は、これに寒々とした思いを抱かずにいられましょうか。今私もこの国に生まれて日本人の名があり、すでにその名がある以上、それぞれの分を明らかにして尽くすところがなければなりません。もとより政治の字義に限られたことをするのは政府の任務ですが、人の営みには政府が関わるべきでないものもまた多いのです。

解説

疑問があること自体が答えだ、という論法です。イギリスで同じ問いをすれば笑われる。疑われないことこそ独立の証で、疑われている日本はまだそこに達していない。問いの有無を指標として使う発想が鋭い。そして自分も日本人の名を持つから分を尽くさねばならない、と当事者として立ちます。次の段から、政府の任と民の任の切り分けに入ります。

この章句が説くこと

疑問指標独立当事者分担

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