学問のすゝめ / 四編・学者の職分を論ず・日本にはただ政府ありていまだ国民あらず
しかるにその不誠不実、かくのごときのはなはだしきに至る所以は、いまだ世間に民権を首唱する実例なきをもって、ただかの卑屈の気風に制せられその気風に雷同して、国民の本色を見わし得ざるなり。これを概すれば、日本にはただ政府ありていまだ国民あらずと言うも可なり。ゆえにいわく、人民の気風を一洗して世の文明を進むるには、今の洋学者流にもまた依頼すべからざるなり。
書き下し
しかるにその不誠不実、かくのごときのはなはだしきに至る所以は、いまだ世間に民権を首唱する実例なきをもって、ただかの卑屈の気風に制せられ、その気風に雷同して、国民の本色を見わし得ざるなり。これを概すれば、日本にはただ政府ありていまだ国民あらずと言うも可なり。ゆえにいわく、人民の気風を一洗して世の文明を進むるには、今の洋学者流にもまた依頼すべからざるなり。
現代語訳
ところがその不誠実がこれほど甚だしくなる理由は、まだ世間に民の権利を唱える実例がないので、ただあの卑屈な気風に抑えられ、その気風に同調して、国民としての本来の姿を表せないからです。これをまとめて言えば、日本にはただ政府があるだけで、まだ国民はいない、と言ってもよいでしょう。ですから言います。人民の気風を洗い流して世の文明を進めるには、今の洋学者にもまた頼ることはできません。
解説
日本にはただ政府ありていまだ国民あらず。この編でもっとも鋭い一句です。制度としての国民はいても、権利を主張し義務を果たす主体としての国民がまだいない、という診断。原因は実例がないことに求められています。前を行く例がないから同調するしかない。そして洋学者にも頼れないと結論し、では誰が、という問いが次の段に残されます。
この章句が説くこと
国民不在実例同調診断
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『学問のすゝめ』四編・学者の職分を論ず・一国の文明は政府の力のみにて進まず政府一新の時より在官の人物、力を尽くさざるにあらず、その才力また拙劣なるにあらずといえども、事を行なうに当たり如何ともすべからざるの原因ありて、意のごとくならざるもの多し。その原因とは、人民の無知文盲すなわちこれなり。政府すでにその原因のあるところを知り、しきりに学術を勧め、法律を議し、商法を立つるの道を示す等、あるいは人民に説諭し、あるいはみずから先例を示し、百方その術を尽くすといえども、今日に至るまでいまだ実効の挙がるを見ず、政府は依然たる専制の政府、人民は依然たる無気無力の愚民のみ。あるいはわずかに進歩せしことあるも、これがため労するところの力と費やすところの金とに比すれば、その奏功見るに足るもの少なきはなんぞや。けだし一国の文明は、ひとり政府の力をもって進むべきものにあらざるなり。
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