学問のすゝめ / 三編・一身独立して一国独立すること・一人の恥辱にあらず一国の恥辱なり
こは一人の損亡にあらず、一国の損亡なり。一人の恥辱にあらず、一国の恥辱なり。実に馬鹿らしきようなれども、先祖代々独立の気を吸わざる町人根性、武士には窘しめられ、裁判所には叱られ、一人扶持取る足軽に逢いてもお旦那さまと崇めし魂は腹の底まで腐れつき、一朝一夕に洗うべからず、かかる臆病神の手下どもが、かの大胆不敵なる外国人に逢いて、胆をぬかるるは無理ならぬことなり。これすなわち内に居て独立を得ざる者は外にありても独立すること能わざるの証拠なり。
書き下し
こは一人の損亡にあらず、一国の損亡なり。一人の恥辱にあらず、一国の恥辱なり。実に馬鹿らしきようなれども、先祖代々独立の気を吸わざる町人根性、武士には窘しめられ、裁判所には叱られ、一人扶持取る足軽に逢いてもお旦那さまと崇めし魂は腹の底まで腐れつき、一朝一夕に洗うべからず、かかる臆病神の手下どもが、かの大胆不敵なる外国人に逢いて、胆をぬかるるは無理ならぬことなり。これすなわち、内に居て独立を得ざる者は外にありても独立すること能わざるの証拠なり。
現代語訳
これは一人の損害ではなく、一国の損害です。一人の恥辱ではなく、一国の恥辱です。実に馬鹿らしいようですが、先祖代々独立の気を吸ったことのない町人根性が、武士には苦しめられ、裁判所には叱られ、一人扶持しか取らない足軽に会ってもお旦那さまと崇めてきたその魂は、腹の底まで腐りついて、一朝一夕には洗い落とせません。こういう臆病神の手下たちが、あの大胆不敵な外国人に会って肝を抜かれるのは無理もないことです。これこそ、内にいて独立を得られない者は、外にあっても独立できないという証拠です。
解説
個人の萎縮が国の損害になるという接続が明示されます。そして萎縮の由来が遡られる。武士に苦しめられ、足軽にまで頭を下げてきた習慣が、腹の底まで腐りついている。一朝一夕に洗えない、という認識が重要で、制度を変えても人が変わるには時間がかかることを見据えています。だから学問が要る、という結論に向かう筋道です。
この章句が説くこと
萎縮根性習慣国益由来
関連する章句
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『学問のすゝめ』三編・一身独立して一国独立すること・習い性となる第二条、内に居て独立の地位を得ざる者は、外にありて外国人に接するときもまた独立の権義を伸ぶること能わず。独立の気力なき者は必ず人に依頼す、人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐るる者は必ず人に諛うものなり。常に人を恐れ人に諛う者はしだいにこれに慣れ、その面の皮、鉄のごとくなりて、恥ずべきを恥じず、論ずべきを論ぜず、人をさえ見ればただ腰を屈するのみ。いわゆる「習い、性となる」とは、このことにて、慣れたることは容易に改め難きものなり。譬えば今、日本にて平民に苗字・乗馬を許し、裁判所の風も改まりて、表向きはまず士族と同等のようなれども、その習慣にわかに変ぜず、平民の根性は依然として旧の平民に異ならず、言語も賤しく応接も賤しく、目上の人に逢えば一言半句の理屈を述ぶること能わず、立てと言えば立ち、舞えと言えば舞い、その柔順なること家に飼いたる痩せ犬のごとし。実に無気無力の鉄面皮と言うべし。
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『学問のすゝめ』三編・一身独立して一国独立すること・一命を棄つるは過分なり国内のことなればともかくもなれども、いったん外国と戦争などのことあらば、その不都合なること思い見るべし。無智無力の小民ら、戈を倒にすることもなかるべけれども、われわれは客分のことなるゆえ、一命を棄つるは過分なりとて逃げ走る者多かるべし。さすればこの国の人口、名は百万人なれども、国を守るの一段に至りてはその人数はなはだ少なく、とても一国の独立は叶い難きなり。
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『学問のすゝめ』三編・一身独立して一国独立すること・人を放ちてともに苦楽を与にす右三ヵ条に言うところはみな、人民に独立の心なきより生ずる災害なり。今の世に生まれ、いやしくも愛国の意あらん者は、官私を問わずまず自己の独立を謀り、余力あらば他人の独立を助け成すべし。父兄は子弟に独立を教え、教師は生徒に独立を勧め、士農工商ともに独立して国を守らざるべからず。概してこれを言えば、人を束縛してひとり心配を求むるより、人を放ちてともに苦楽を与にするに若かざるなり。
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