学問のすゝめ / 初編・ともに全国の太平を護らん
今の世に生まれ報国の心あらん者は、必ずしも身を苦しめ思いを焦がすほどの心配あるにあらず。ただその大切なる目当ては、この人情に基づきてまず一身の行ないを正し、厚く学に志し、博く事を知り、銘々の身分に相応すべきほどの智徳を備えて、政府はその政を施すに易く、諸民はその支配を受けて苦しみなきよう、互いにその所を得てともに全国の太平を護らんとするの一事のみ。今余輩の勧むる学問ももっぱらこの一事をもって趣旨とせり。
書き下し
今の世に生まれ報国の心あらん者は、必ずしも身を苦しめ思いを焦がすほどの心配あるにあらず。ただその大切なる目当ては、この人情に基づきて、まず一身の行ないを正し、厚く学に志し、博く事を知り、銘々の身分に相応すべきほどの智徳を備えて、政府はその政を施すに易く、諸民はその支配を受けて苦しみなきよう、互いにその所を得て、ともに全国の太平を護らんとするの一事のみ。今余輩の勧むる学問も、もっぱらこの一事をもって趣旨とせり。
現代語訳
今の世に生まれて国に報いる心のある者は、必ずしも身を苦しめ思いを焦がすほどの心配があるわけではありません。ただその大切な目当ては、この人の情に基づいて、まず自分一身の行いを正し、深く学問を志し、広く物事を知り、それぞれの身分にふさわしいだけの智と徳を備えて、政府は政治を行いやすく、民は支配を受けても苦しみがないように、互いにその居場所を得て、ともに全国の太平を守ろうという、この一事だけです。今私たちが勧める学問も、もっぱらこの一事を趣旨としています。
解説
初編の締めくくりで、報国の具体的な形が示されます。身を苦しめる必要はない。まず自分の行いを正し、学び、知り、身分にふさわしい智徳を備える。それだけでよい、と言います。国のために何かをするという発想を、自分を整えることに置き換えている点が重要で、大きな目標を最も手近な行為に変換する福沢の手つきが、ここでも働いています。

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