学問のすゝめ / 初編・字を学ばざるべからず
前条に言えるとおり、人の一身も一国も、天の道理に基づきて不覊自由なるものなれば、もしこの一国の自由を妨げんとする者あらば世界万国を敵とするも恐るるに足らず、この一身の自由を妨げんとする者あらば政府の官吏も憚るに足らず。ましてこのごろは四民同等の基本も立ちしことなれば、いずれも安心いたし、ただ天理に従いて存分に事をなすべしとは申しながら、およそ人たる者はそれぞれの身分あれば、またその身分に従い相応の才徳なかるべからず。身に才徳を備えんとするには物事の理を知らざるべからず。物事の理を知らんとするには字を学ばざるべからず。これすなわち学問の急務なるわけなり。
書き下し
前条に言えるとおり、人の一身も一国も、天の道理に基づきて不覊自由なるものなれば、もしこの一国の自由を妨げんとする者あらば世界万国を敵とするも恐るるに足らず、この一身の自由を妨げんとする者あらば政府の官吏も憚るに足らず。ましてこのごろは四民同等の基本も立ちしことなれば、いずれも安心いたし、ただ天理に従いて存分に事をなすべしとは申しながら、およそ人たる者はそれぞれの身分あれば、またその身分に従い相応の才徳なかるべからず。身に才徳を備えんとするには、物事の理を知らざるべからず。物事の理を知らんとするには、字を学ばざるべからず。これすなわち学問の急務なるわけなり。
現代語訳
前の条で言ったとおり、人一人の身も一つの国も、天の道理に基づいて縛られない自由なものですから、もしこの一国の自由を妨げようとする者があれば世界中を敵に回しても恐れるに足りず、この一身の自由を妨げようとする者があれば政府の役人でも憚るに足りません。まして近ごろは四民同等の基礎も立ったのですから、どなたも安心して、ただ天の理に従って存分に事をなすべきです。とはいえ、およそ人たる者にはそれぞれの身分がありますから、その身分に応じた才と徳がなければなりません。身に才と徳を備えるには物事の道理を知らねばならず、物事の道理を知るには字を学ばねばなりません。これこそ学問が急務である理由です。
解説
初編の議論が一本の線に束ねられます。自由を守るには才徳が要り、才徳には道理の理解が要り、道理には字が要る。だから学問が急務だ、という遡り方です。自由という大きな理念から、字を習うという最も手近な行為まで、一続きで結ばれています。理念を行動に落とす手つきが鮮やかで、読者は明日から何をすればよいか分かります。
この章句が説くこと
自由才徳道理文字急務
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