福沢諭吉小品集 / 修身要領・第2段
第九条 結婚は人生の重大事なれば、配偶の撰択は最も慎重ならざる可らず。一夫一婦終身同室、相敬愛して、互いに独立自尊を犯さゞるは、人倫の始なり。 第十条 一夫一婦の間に生るゝ子女は、其父母の他に父母なく、其子女の他に子女なし。親子の愛は真純の親愛にして、之を傷けざるは一家幸福の基なり。 第十一条 子女も亦独立自尊の人なれども、其幼時に在ては、父母これが教養の責に任ぜざる可らず。子女たるものは、父母の訓誨に従て孜々勉励、成長の後、独立自尊の男女として世に立つの素養を成す可きものなり。 第十二条 独立自尊の人たるを期するには、男女共に、成人の後にも、自から学問を勉め、知識を開発し、徳性を修養するの心掛を怠る可らず。 第十三条 一家より数家、次第に相集りて、社会の組織を成す。健全なる社会の基は、一人一家の独立自尊に在りと知る可し。 第十四条 社会共存の道は、人々自から権利を護り幸福を求むると同時に、他人の権利幸福を尊重して、苟も之を犯すことなく、以て自他の独立自尊を傷けざるに在り。 第十五条 怨を構へ仇を報ずるは、野蛮の陋習にして卑劣の行為なり。恥辱を雪ぎ名誉を全うするには、須らく公明の手段を択むべし。 第十六条 人は自から従事する所の業務に忠実ならざる可らず。其大小軽重に論なく、苟も責任を怠るものは、独立自尊の人に非ざるなり。 第十七条 人に交るには信を以てす可し。己れ人を信じて人も亦己れを信ず。人々相信じて始めて自他の独立自尊を実にするを得べし。 第十八条 礼儀作法は、敬愛の意を表する人間交際上の要具なれば、苟めにも之を忽にす可らず。只その過不及なきを要するのみ。 第十九条 己れを愛するの情を拡めて他人に及ぼし、其疾苦を軽減し其福利を増進するに勉むるは、博愛の行為にして、人間の美徳なり。 第二十条 博愛の情は、同類の人間に対するに止まる可らず。禽獣を虐待し又は無益の殺生を為すが如き、人の戒む可き所なり。 第二十一条 文芸の嗜は、人の品性を高くし精神を娯ましめ、之を大にすれば、社会の平和を助け人生の幸福を増すものなれば、亦是れ人間要務の一なりと知る可し。
書き下し
第九条 結婚は人生の重大事なれば、配偶の撰択は最も慎重ならざる可らず。一夫一婦終身同室、相敬愛して、互いに独立自尊を犯さゞるは、人倫の始なり。 第十条 一夫一婦の間に生るゝ子女は、其父母の他に父母なく、其子女の他に子女なし。親子の愛は真純の親愛にして、之を傷けざるは一家幸福の基なり。 第十一条 子女も亦独立自尊の人なれども、其幼時に在ては、父母これが教養の責に任ぜざる可らず。子女たるものは、父母の訓誨に従て孜々勉励、成長の後、独立自尊の男女として世に立つの素養を成す可きものなり。 第十二条 独立自尊の人たるを期するには、男女共に、成人の後にも、自から学問を勉め、知識を開発し、徳性を修養するの心掛を怠る可らず。 第十三条 一家より数家、次第に相集りて、社会の組織を成す。健全なる社会の基は、一人一家の独立自尊に在りと知る可し。 第十四条 社会共存の道は、人々自から権利を護り幸福を求むると同時に、他人の権利幸福を尊重して、苟も之を犯すことなく、以て自他の独立自尊を傷けざるに在り。 第十五条 怨を構へ仇を報ずるは、野蛮の陋習にして卑劣の行為なり。恥辱を雪ぎ名誉を全うするには、須らく公明の手段を択むべし。 第十六条 人は自から従事する所の業務に忠実ならざる可らず。其大小軽重に論なく、苟も責任を怠るものは、独立自尊の人に非ざるなり。 第十七条 人に交るには信を以てす可し。己れ人を信じて人も亦己れを信ず。人々相信じて始めて自他の独立自尊を実にするを得べし。 第十八条 礼儀作法は、敬愛の意を表する人間交際上の要具なれば、苟めにも之を忽にす可らず。只その過不及なきを要するのみ。 第十九条 己れを愛するの情を拡めて他人に及ぼし、其疾苦を軽減し其福利を増進するに勉むるは、博愛の行為にして、人間の美徳なり。 第二十条 博愛の情は、同類の人間に対するに止まる可らず。禽獣を虐待し又は無益の殺生を為すが如き、人の戒む可き所なり。 第二十一条 文芸の嗜は、人の品性を高くし精神を娯ましめ、之を大にすれば、社会の平和を助け人生の幸福を増すものなれば、亦是れ人間要務の一なりと知る可し。
現代語訳
第九条 結婚は人生の重大事ですから、配偶者の選択は最も慎重でなければなりません。一夫一婦が終生ともに暮らし、互いに敬い愛して、相手の独立自尊を犯さないことは、人倫の始まりです。 第十条 一夫一婦の間に生まれた子女にとって、その父母のほかに父母はなく、その子女のほかに子女はありません。親子の愛は混じりけのない親愛であり、これを傷つけないことが一家の幸福の基です。 第十一条 子女もまた独立自尊の人ですが、幼いうちは、父母が教え育てる責任を負わなければなりません。子女は父母の教えに従って熱心に励み、成長の後に独立自尊の男女として世に立つための素養をつくるべきです。 第十二条 独立自尊の人であろうとするなら、男女ともに、成人の後にも、自ら学問に努め、知識を開き、徳性を修養する心がけを怠ってはなりません。 第十三条 一家から数家へと次第に集まって、社会の組織ができます。健全な社会の基は、一人ひとり、一家ごとの独立自尊にあると知るべきです。 第十四条 社会がともに生きる道は、人々が自ら権利を守り幸福を求めると同時に、他人の権利と幸福を尊重し、かりそめにもこれを犯さず、そうして自他の独立自尊を傷つけないことにあります。 第十五条 恨みを抱いて仇を討つことは、野蛮な悪習であり卑劣な行いです。恥辱をすすぎ名誉をまっとうするには、ぜひとも公明正大な手段を選ぶべきです。 第十六条 人は自分が従事する業務に忠実でなければなりません。その大小や軽重を問わず、かりそめにも責任を怠る者は、独立自尊の人ではありません。 第十七条 人と交わるには信を用いるべきです。自分が人を信じれば、人もまた自分を信じます。人々が互いに信じ合ってはじめて、自他の独立自尊を実のあるものにできます。 第十八条 礼儀作法は、敬愛の気持ちを表す人間交際上の大切な道具ですから、かりそめにもおろそかにしてはなりません。ただ、過ぎたり足りなかったりしないことが必要なだけです。 第十九条 自分を愛する気持ちを広げて他人に及ぼし、その苦しみを軽くし、その幸福を増すよう努めることは、博愛の行いであり、人間の美徳です。 第二十条 博愛の気持ちは、同じ人間に対するだけにとどまってはなりません。鳥や獣を虐待したり、無益な殺生をしたりするようなことは、人が戒めるべきところです。 第二十一条 文芸を楽しむことは、人の品性を高くし、精神を楽しませ、さらに大きくは社会の平和を助けて人生の幸福を増すものですから、これもまた人間の大切な務めの一つと知るべきです。
解説
この章句が説くこと
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孟子・離婁章句上樂正子、子敖に從いて齊に之く。樂正子、孟子に見ゆ。孟子曰く、「子も亦た來たりて我を見るか。」曰く、「先生何為れぞ此の言を出だすや。」曰く、「子來たること幾日ぞ。」曰く、「昔者なり。」曰く、「昔者ならば、則ち我、此の言を出だすも、亦た宜ならずや。」曰く、「舍館未だ定まらざればなり。」曰く、「子、之を聞けりや。舍館定まりて、然る後に長者に見ゆることを求むるか。」曰く、「克、罪有り。」 <語釈> ○「樂正子」、趙注:魯の人樂正克、孟子の弟子なり、齊の右師子敖に從う、子敖、使いして魯に之く、樂正子、之に随い、來たりて齊に之く。○「昔者」、趙注:「昔者」は往なり、數日の閒を謂う。
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