不動智神妙録 / 諫言 其一 忠を尽くす
如此君臣上下善人にして、欲薄く奢を止むる時は、國に寳滿ちて民も豊かに治り、子の親をしたしみ、手足の上を救ふが如くならば、國は自ら平に成るべし、是れ忠の初なり、この金鐵の二心なき兵を、以上樣々の御時御用に立てたらば、千萬人を遣ふとも心のまゝなるべし、則ち先きに云ふ所の千手觀音の一心正しければ、千の手皆用に立つか如く、貴殿の兵術の心正しけれは、一心の働自在にして數千人の敵をも一劒に隨へるが如し、是れ大忠にあらずや、
新字:如此君臣上下善人にして、欲薄く奢を止むる時は、国に宝満ちて民も豊かに治り、子の親をしたしみ、手足の上を救ふが如くならば、国は自ら平に成るべし、是れ忠の初なり、この金鉄の二心なき兵を、以上様々の御時御用に立てたらば、千万人を遣ふとも心のまゝなるべし、則ち先きに云ふ所の千手観音の一心正しければ、千の手皆用に立つか如く、貴殿の兵術の心正しけれは、一心の働自在にして数千人の敵をも一劒に随へるが如し、是れ大忠にあらずや、
書き下し
如此君臣上下善人にして、欲薄く奢を止むる時は、国に宝満ちて民も豊かに治り、子の親をしたしみ、手足の上を救ふが如くならば、国は自ら平に成るべし、是れ忠の初なり、この金鉄の二心なき兵を、以上様々の御時御用に立てたらば、千万人を遣ふとも心のまゝなるべし、則ち先きに云ふ所の千手観音の一心正しければ、千の手皆用に立つか如く、貴殿の兵術の心正しけれは、一心の働自在にして数千人の敵をも一劒に随へるが如し、是れ大忠にあらずや、
現代語訳
このように、主君も臣下も、上も下も善い人となり、欲が薄く、奢りをやめるときは、国に宝が満ちて民も豊かに治まり、子が親を慕い、手足が頭を救うようであれば、国はおのずから平らかになるでしょう。これが忠の始まりです。この金鉄のように二心のない兵を、いざというときの御用に立てれば、千人万人を使うとしても思いのままでしょう。すなわち、先に言った千手観音の一つの心が正しければ、千の手がみな役に立つように、あなたの兵術の心が正しければ、一つの心の働きが自在になって、数千人の敵をも一振りの剣で従えるようになるのです。これこそ大忠ではないでしょうか。
解説

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『学問のすゝめ』四編・学者の職分を論ず・これを散ずれば明なりこれを集むれば暗なり私にありては智なり、官にありては愚なり。これを散ずれば明なり、これを集むれば暗なり。政府は衆智者の集まるところにして、一愚人の事を行なうものと言うべし。あに怪しまざるを得んや。畢竟その然る所以は、かの気風なるものに制せられて、人々みずから一個の働きを逞しゅうすること能わざるによりて致すところならんか。維新以来、政府にて学術、法律、商売等の道を興さんとして効験なきも、その病の原因はけだしここにあるなり。しかるにいま一時の術を用いて下民を御し、その知徳の進むを待つとは、威をもって人を文明に強ゆるものか、しからざれば欺きて善に帰せしむるの策なるべし。政府威を用うれば人民は偽をもってこれに応ぜん、政府欺を用うれば人民は容を作りてこれに従わんのみ。これを上策と言うべからず。たといその策は巧みなるも、文明の事実に施して益なかるべし。ゆえにいわく、世の文明を進むるには、ただ政府の力のみに依頼すべからざるなり。