不動智神妙録 / 電光影裏斬春風
風を切つたのは太刀に覺もあるまいぞ、かやうに心を忘れ切つて萬の事をするが上手の位なり、舞を舞へば手に扇を取り足を蹈む、其手足を能くせむ舞を能く舞はむと思ひて、忘れきらねば上手とは申されず候、未だ手足に心止まらば業は皆面白かるまじ、悉皆心を捨てきらずしてする所作は皆惡敷候。
新字:風を切つたのは太刀に覚もあるまいぞ、かやうに心を忘れ切つて万の事をするが上手の位なり、舞を舞へば手に扇を取り足を蹈む、其手足を能くせむ舞を能く舞はむと思ひて、忘れきらねば上手とは申されず候、未だ手足に心止まらば業は皆面白かるまじ、悉皆心を捨てきらずしてする所作は皆悪敷候。
書き下し
風を切つたのは太刀に覚もあるまいぞ、かやうに心を忘れ切つて万の事をするが上手の位なり、舞を舞へば手に扇を取り足を蹈む、其手足を能くせむ舞を能く舞はむと思ひて、忘れきらねば上手とは申されず候、未だ手足に心止まらば業は皆面白かるまじ、悉皆心を捨てきらずしてする所作は皆悪敷候。
現代語訳
風を切ったのは、太刀に手ごたえもないだろう。このように心を忘れきって、あらゆる事をするのが上手の位です。舞を舞えば、手に扇を取り、足を踏みます。その手足をうまく動かそう、舞をうまく舞おうと思って、忘れきらなければ、上手とは言えません。まだ手足に心がとどまっていれば、芸はみな面白くないでしょう。すべて心を捨てきらずにする所作は、みな悪いのです。
解説
舞を例に、上手とは何かを説く。うまく舞おうと思っているうちは、まだ上手ではない。手足の動きを意識しているうちは、見る人に面白さが伝わらない。心を忘れきって初めて、芸は生きる。これは、プレゼンテーションや接客、スポーツなど、人前で技を見せるあらゆる場面に通じる。うまくやろうとする意識が、かえって動きを硬くし、魅力を損なう。稽古を積んだうえで、本番ではそれを忘れることが求められる。
この章句が説くこと
舞上手無心本番稽古芸
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『不動智神妙録』電光影裏斬春風貴殿の兵法に当て申し候はヾ、太刀を打つ手に心を止めず、一切打つ手を忘れて打つて人を切れ、人に心を置くな、人も空、我も空、打つ手も打つ太刀も空と心得、空に心を取られまひぞ、
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『不動智神妙録』心の置所心の置所 心を何処に置かうぞ、敵の身の働に心を置けば、敵の身の働に心を取らるゝなり、敵の太刀に心を置けは、敵の太刀に心を取らるゝなり、敵を切らんと思ふ所に心を置けば、敵を切らんと思ふ所に心を取らるゝなり、我太刀に心を置けば、我太刀に心を取らるゝなり、われ切られじと思ふ所に心を置けば、切られじと思ふ所に心を取らるゝなり、人の構に心を置けば、人の構に心を取らるゝなり、兎角心の置所はないと言ふ、
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『不動智神妙録』初心と至極扨初心の住地より修行して不動智の位に至れは、立帰つて住地の初心の位へ落つべき子細御入り候。貴殿の兵法にて可申候、初心は身に持つ太刀の構も何も知らぬものなれば身に心の止まる事もなし、人が打ち候へはつひ取合ふばかりにて何の心もなし、然る処にさまざまの事を習ひ、身に持つ太刀の取様、心の置所、いろいろの事を教へぬれば色々の処に心が止り、人を打たんとすれば兎や角して殊の外不自由なる事、日を重ね年月をかさね稽古するに従ひ、後は身の構も太刀の取様も、皆心になくなりて唯最初の何か知らぬ何もなき時の様也、
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『不動智神妙録』無明住地煩悩打太刀を見る事は見れどもそこに心をとめず、向ふの打太刀の拍子に合せて、打たうとも思はず思案分別を残さず、振上ぐる太刀を見るや否や心を卒度止めず、其まゝ付入て向ふの太刀にとりつかば、我をきらんとする刀を我が方へもぎとりて、却つて向ふを切る刀となるべく候、禅宗には是れを還把鎗頭倒刺人来ると申し候、鎗はほこにて候、人の持ちたる刀を我か方へもぎ取りて還つて相手を切ると申す心にて候、貴殿の無刀と仰せられ候事にて候、
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『不動智神妙録』心の置所万事に堅まつたるは偏に落つるとて道に嫌ひ申す事なり、何処に置かうとて思ひなければ、心は全体に伸びひろごりて行き渡りて有るものなり、心をば何処にも置かずして、敵の働によりて当位々々心を其所々にて可用心歟、総身に渡つてあれば、手の入る時には手にある心を遣ふべし、足の入る時には足にある心を遣ふべし、一所に定めて置きたらば、其置きたる所より引出し遣らんとする程に、其処に止りて用が抜け申し候、