不動智神妙録 / 有心の心 無心の心
此無心が心に能くなりぬれば一事に止らず一事に缺かず、道に水の湛えたるやうにして此身に在りて用の向ふ時出て叶ふなり、一所に定まり留まりたる心は自由に働かぬなり、車の輪も堅からぬにより廻るなり、一所につまりたらば廻るまじきなり、心も一時に定むれば働かぬものなり、心中に何ぞ思ふ事あれば人の云ふ事をも聞きなから聞えざるなり、思ふ事に心が止まるゆゑなり、心が其思ふ事に在りて一方へかたより、一方へかたよれば物を聞けども聞たず、見れども見えざるなり、
新字:此無心が心に能くなりぬれば一事に止らず一事に欠かず、道に水の湛えたるやうにして此身に在りて用の向ふ時出て叶ふなり、一所に定まり留まりたる心は自由に働かぬなり、車の輪も堅からぬにより廻るなり、一所につまりたらば廻るまじきなり、心も一時に定むれば働かぬものなり、心中に何ぞ思ふ事あれば人の云ふ事をも聞きなから聞えざるなり、思ふ事に心が止まるゆゑなり、心が其思ふ事に在りて一方へかたより、一方へかたよれば物を聞けども聞たず、見れども見えざるなり、
書き下し
此無心が心に能くなりぬれば一事に止らず一事に欠かず、道に水の湛えたるやうにして此身に在りて用の向ふ時出て叶ふなり、一所に定まり留まりたる心は自由に働かぬなり、車の輪も堅からぬにより廻るなり、一所につまりたらば廻るまじきなり、心も一時に定むれば働かぬものなり、心中に何ぞ思ふ事あれば人の云ふ事をも聞きなから聞えざるなり、思ふ事に心が止まるゆゑなり、心が其思ふ事に在りて一方へかたより、一方へかたよれば物を聞けども聞たず、見れども見えざるなり、
現代語訳
この無心が心によく身につけば、一つの事にとどまらず、一つの事も欠かさず、いつも水が満ちているようにこの身にあって、働きが求められるときに出てきて用をかなえるのです。一か所に定まりとどまった心は、自由に働きません。車の輪も、固くないから回るのです。一か所に詰まってしまえば回らないでしょう。心も一つの事に定めてしまえば働かないものです。心の中に何か思うことがあれば、人の言うことを聞いていながら聞こえていないのです。思うことに心がとどまるからです。心がその思う事にあって一方へ片寄り、一方へ片寄れば、物を聞いても聞こえず、見ても見えないのです。
解説

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