塩鉄論 / 論菑篇
大夫曰:「巫祝不可與並祀、諸生不可與逐語、信往疑今、非人自是。夫道古者稽之今、言遠者合之近。日月在天、其征在人、菑異之變、夭壽之期、陰陽之化、四時之敘、水火金木、妖祥之應、鬼神之靈、祭祀之福、日月之行、星辰之紀、曲言之故、何所本始?不知則默、無茍亂耳。」
新字:大夫曰:「巫祝不可与並祀、諸生不可与逐語、信往疑今、非人自是。夫道古者稽之今、言遠者合之近。日月在天、其征在人、菑異之変、夭寿之期、陰陽之化、四時之敘、水火金木、妖祥之応、鬼神之霊、祭祀之福、日月之行、星辰之紀、曲言之故、何所本始?不知則黙、無茍乱耳。」
書き下し
大夫曰く、巫祝は與に並び祀る可からず、諸生は與に語を逐う可からず。往を信じ今を疑い、人を非として自ら是とす。夫れ古を道う者は之を今に稽え、遠きを言う者は之を近きに合わす。日月は天に在り、其の征は人に在り。菑異の變、夭壽の期、陰陽の化、四時の敘、水火金木、妖祥の應、鬼神の靈、祭祀の福、日月の行、星辰の紀、曲言の故、何ぞ本づき始まる所ぞ。知らずんば則ち默せよ。茍くも耳を亂す無かれ。
現代語訳
大夫が言った。「巫女や祝人とは並んで祀ることができず、書生たちとは言葉を追って議論することができない。昔を信じて今を疑い、他人を非として自分を是とするからだ。そもそも古を語る者はそれを今に照らし、遠いことを言う者はそれを近いことに合わせる。日と月は天にあるが、その徴は人にある。災いや異変の変化、若死にと長寿の定め、陰陽の移り変わり、四季の順序、水火金木、妖しさと吉兆の応じ方、鬼神の霊験、祭祀の福、日月の運行、星辰の筋道、まわりくどい言葉のいわれ——それらは何に基づき、どこから始まったのか。知らないなら黙っていろ。いいかげんなことで耳を乱すな」
解説
文学が「足元も分からずに瀛海が分かるか」と返したのを、大夫がそっくり同じ形で投げ返した段です。昔を信じて今を疑い、他人を非として自分を是とする、と相手の癖を先に名指しします。そのうえで質問を浴びせました。災異、寿命、陰陽、四季、五行、鬼神、星の運行——その根拠はどこにあるのか、と。**知らないなら、黙っていろ。**知識の出どころを問い詰めて、議論の資格そのものを争点にした段です。
この章句が説くこと
古を道う者は之を今に稽え遠きを言う者は之を近きに合わす知らずんば則ち黙せよ日月は天に在り其の征は人に在り根拠知識議論
関連する章句
-
論語・子路篇子曰く、詩三百を誦し、之に授くるに政を以てして達せず。四方に使いして、専対する能わず。多しと雖も、亦た奚を以て為さん。
-
論語・為政篇子曰く、由よ、女(なんじ)に之を知るを誨えんか。之を知るを之を知ると為し、知らざるを知らずと為す、是れ知るなり。
-
葉隠・聞書第二御家(おいえ)の事、御家中(ごかちゅう)の事、古来根元(こらいこんげん)、よく存ぜず候て叶わざる事に候。然れども、時によりて物識(ものしり)が差合(さしあ)う事これあるものなり。了簡(りょうけん)入るべし。石井新五左衛門(いしいしんござえもん)、山本紛(やまもとまぎ)れの事。平生(へいぜい)の事にも、案内(あんない)知って支(つか)えになることあるものなり。了簡入るべし。口達(くたつ)。
-
荀子・大略篇語に曰く、「流丸(りゅうがん)は甌臾(おうゆ)に止まり、流言は知者に止まる」と。此れ家言(かげん)邪説の儒者を悪(にく)む所以(ゆゑん)なり。是非疑はしければ、則ち之を度(はか)るに遠き事を以てし、之を験(ため)すに近き物を以てし、之に参(まじ)ふるに平らかなる心を以てす。流言焉(ここ)に止まり、悪言焉に死す。
-
説苑・君道湯曰く、「薬食は先ず卑に嘗めしめ、然る後に貴に至る。薬言は先ず貴に献じ、然る後に卑に聞こゆ」と。故に薬卑に嘗めしめ、然る後に貴に至るは、教えなり。薬言貴に献じ、然る後に卑に聞こゆるは、道なり。故に人をして食を味わしめて然る後に食する者は、其の味を得ること多し。人をして言を味わしめて然る後に言を聞く者は、其の言を得ること少なし。是を以て明王の言は、必ず自ら他に之を聴かしめ、必ず自ら他に之を聞かしめ、必ず自ら他に之を択ばしめ、必ず自ら他に之を取らしめ、必ず自ら他に之を聚めしめ、必ず自ら他に之を蔵せしめ、必ず自ら他に之を行わしむ。故に道は数ば之を取るを以て明と為し、数ば之を行うを以て章と為し、数ば之を万物に施すを以て蔵と為す。是の故に道を求むる者は目を以てせずして心を以てし、道を取る者は手を以てせずして耳を以てす。
-
論語・衛霊公篇子曰く、吾の人に於けるや、誰をか毀り誰をか誉めん。如し誉むる所有らば、其れ試みる所有らん。斯の民や、三代の直道にして行いし所以なり。