塩鉄論 / 擊之篇
大夫曰:「昔夏后底洪水之災、百姓孔勤、罷於籠臿、及至其後、咸享其功。先帝之時、郡國頗煩於戎事、然亦寬三陲之役。語曰:『見機不遂者隕功。』一日違敵、累世為患。休勞用供、因弊乘時。帝王之道、聖賢之所不能失也。功業有緒、惡勞而不卒、猶耕者倦休而困止也。夫事輟者無功、耕怠者無獲也。」
新字:大夫曰:「昔夏后底洪水之災、百姓孔勤、罷於籠臿、及至其後、咸享其功。先帝之時、郡国頗煩於戎事、然亦寛三陲之役。語曰:『見機不遂者隕功。』一日違敵、累世為患。休労用供、因弊乗時。帝王之道、聖賢之所不能失也。功業有緒、悪労而不卒、猶耕者倦休而困止也。夫事輟者無功、耕怠者無獲也。」
書き下し
大夫曰く、昔、夏后は洪水の災いを底め、百姓孔だ勤め、籠臿に罷る、其の後に至るに及びて、咸な其の功を享く。先帝の時、郡國は頗る戎事に煩わさる、然れども亦た三陲の役を寬くせり。語に曰く、『機を見て遂げざる者は功を隕とす』と。一日敵を違えば、累世の患いと為る。勞を休めて供を用い、弊に因りて時に乘ず。帝王の道は、聖賢の失う能わざる所なり。功業に緒有るに、勞を惡みて卒えざるは、猶お耕す者の倦み休みて困り止むがごときなり。夫れ事を輟むる者は功無く、耕すに怠る者は獲る無きなり。
現代語訳
大夫が言った。「昔、夏の禹は洪水の災いを鎮めた。民はひどく苦労し、もっこと鋤に疲れ果てた。だがその後になって、みながその功績を享受した。先帝の時代、郡国は軍事にかなり煩わされたが、それでも三方の辺境の労役は緩められた。ことわざに『好機を見ながら成し遂げない者は、功を落とす』という。一日敵を見逃せば、幾世代にもわたる憂いとなる。労を休めて備えを用い、相手の疲弊に乗じて時をつかむ。これが帝王の道であり、聖賢が失うことのできないものだ。事業に緒が付いているのに、苦労を嫌って最後までやらないのは、耕す者が飽きて休み、困り果てて手を止めるようなものだ。そもそも事を途中でやめる者に功はなく、耕作を怠る者に収穫はない」
解説
「極まったら本に返る」への反論を、禹の治水で行った段です。**民はもっこと鋤に疲れ果てた。だがその後、みながその功績を享受した。**苦労は後の世代が受け取る、という時間差の議論です。そのうえで「好機を見ながら成し遂げない者は、功を落とす」と続け、一日見逃せば幾世代の憂いになる、と。事を途中でやめる者に功はない。撤退論に対していつの時代も返される言葉が、ここに並んでいます。
この章句が説くこと
機を見て遂げざる者は功を隕とす事を輟むる者は功無く耕すに怠る者は獲る無し一日敵を違えば累世の患いと為る継続好機忍耐
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