塩鉄論 / 錯幣篇
文學曰:「往古、幣眾財通而民樂。其後、稍去舊幣、更行白金龜龍、民多巧新幣。幣數易而民益疑。於是廢天下諸錢、而專命水衡三官作。吏匠侵利、或不中式、故有薄厚輕重。農人不習、物模擬之、信故疑新、不知奸貞。商賈以美貿惡、以半易倍。買則失實、賣則失理、其疑或滋益甚。夫鑄偽金錢以有法、而錢之善惡無增損於故。擇錢則物稽滯、而用人尤被其苦。春秋曰:『算不及蠻、夷則不行。』故王者外不鄣海澤以便民用、內不禁刀幣以通民施。」
新字:文学曰:「往古、幣衆財通而民楽。其後、稍去旧幣、更行白金亀竜、民多巧新幣。幣数易而民益疑。於是廃天下諸銭、而専命水衡三官作。吏匠侵利、或不中式、故有薄厚軽重。農人不習、物模擬之、信故疑新、不知奸貞。商賈以美貿悪、以半易倍。買則失実、売則失理、其疑或滋益甚。夫鋳偽金銭以有法、而銭之善悪無增損於故。択銭則物稽滞、而用人尤被其苦。春秋曰:『算不及蠻、夷則不行。』故王者外不鄣海沢以便民用、内不禁刀幣以通民施。」
書き下し
文學曰く、往古は、幣衆く財通じて民樂しむ。其の後、稍く舊幣を去り、更めて白金龜龍を行い、民多く新幣を巧む。幣しばしば易わりて民いよいよ疑う。是に於いて天下の諸錢を廢して、專ら水衡三官に命じて作らしむ。吏匠は利を侵し、或いは式に中らず、故に薄厚輕重有り。農人は習わず、物之に模擬す、故きを信じ新しきを疑い、奸貞を知らず。商賈は美を以て惡に貿え、半を以て倍に易う。買えば則ち實を失い、賣れば則ち理を失う、其の疑い或いは滋々益々甚だし。夫れ偽金錢を鑄るに法有りと雖も、而も錢の善惡は故に增損無し。錢を擇べば則ち物稽滯し、而して用人は尤も其の苦を被る。春秋に曰く、『算蠻に及ばざれば、夷は則ち行われず』と。故に王者は外に海澤を鄣らずして以て民用を便にし、內に刀幣を禁ぜずして以て民施を通ずるなり。
現代語訳
文学が言った。「大昔は貨幣の種類が多く財は行き渡って民は楽しんでいた。その後、次第に旧貨幣を廃し、代わって白金や亀龍の貨幣を発行したので、民の多くが新貨幣を偽造した。貨幣がたびたび変わるほど、民はますます疑うようになった。そこで天下の諸貨幣を廃止し、水衡の三官だけに鋳造を命じた。ところが役人と職人が利を抜き、規格に合わないものが出て、薄い厚い軽い重いがまちまちになった。農民は見慣れていないので、偽物がそれを真似る。古い銭を信じて新しい銭を疑い、本物か偽物か見分けがつかない。商人は良い銭で悪い銭を仕入れ、半分の値で倍のものと換える。買えば実を失い、売れば道理を失う。疑いはますます深くなるばかりだ。偽金の鋳造に罰則を設けたところで、銭そのものの善し悪しは変わらない。銭を選り分けていれば物の動きは滞り、しかもいちばん苦しむのは人を使って働く側だ。『春秋』にいう、勘定が異民族にまで届かなければ、その先では通用しない、と。だから王者は、外は海や沢を囲い込まずに民の用を便利にし、内は貨幣を禁じずに民の取引を通わせるのだ」
解説
この章句が説くこと
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『政談』國の締り一篇の發端の事総して国の治めと云ふは、譬へば碁盤の目を盛るが如し、目を盛らざる盤にては、何ほどの上手にても碁はうたれぬなり、洪水を静むるには、川筋を付るなり、川筋を付ざれば、禹王再び生れ出たまふとも、水を静むることは叶はざるなり、当時火災の事上の御世話にて塗屋土蔵造に成りたれば、火災自然と少なし、是明かなる証拠なり、其外の御政務には、此訳を申し立る人なきにや、是によりて和漢の古法を考へ愚案の量見を左に記す、
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『政談』右四册大意の事右四册の物語りに瑣細なるまでを記したることは、当時は法の立てやう未熟にて、大なる所に法立たず、末に計り法立ちてある故世界に締り無く、風俗ひたものに移り行き、今は法は法にて有りながら、下は下にて別々になりて、法も詮無きことに成りたることを知らせ奉らんためなり、当時のことなど見及び聞及びたる争などを少々書きたるは、定めて承はり違ひもあるべし、又愚按の違ひもあるべし、政治の道はひきつはなれたることにあらず、世の成行世界の全体を知し召すこと肝要なり、肝心の所は世界旅宿の境界なると、諸事の制度なきと、此二つに帰することなり、是によりて、戸籍を立て万民を住所に有付ると、町人百姓と武家と制度の差別を立ると、大名の家に制度を立ると御買上と云ことの之なきやうにすると、大体是にて世界はすぐなをり豊かに成るへし、
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『政談』諸色直段の事偖又用ゆるもの多き故に高直になる、此用ゆる者多きは制度なきより起れり、元来貴き人は善きものを用ひ、賤きものは悪きものを用ゆるときは、物各々其宜きを得るゆゑ諸色高直にはならぬを、今は賤き者まても善きものを用ゆると云は如何やうの事なれは、御城下に来集る民は素は田舎のものにて、麦粟種等の雑穀を食し、濁酒を飲み、味噌をも食せす、すくも火を焼き、麻木綿を織て着し、席薦の上に寝臥をしたるものか、心儘に御城下に来住する故、米味噌を食し、薪を焼き、炭の火にあたり、衣服も買整へて着し、善酒を飲み、田舎に之なき障子を立て、天井を張り、唐紙を張り、畳を敷き、蚊屋を釣るなとすることは、ぼていふりも皆斯の如し、少しも善き町人は衣服食事家居器物まても金さへあれは大名と同しことにて誰れ制する者なし、是諸物の用ゆる人多き故諸色の高直なること尤なり、
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尉繚子・制談此くの如くんば、戦ひ勝つと雖も国益々弱く、地を得るも国益々貧しきは、国中の制弊るるに由るなり。
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『墨子』尚同中子墨子曰く、方今の時の正長は、則ち本より古者と異なれり。之を譬うるに量るに五刑を以てするが若く然り。昔者、聖王は制して五刑を為り、以て天下を治む。有苗の五刑を制するに逮び至りては、以て天下を亂る。則ち此れ豈に刑の不善ならんや。刑を用うること則ち不善なるなり。是を以て先王の書、呂刑の道いて曰く、「苗民、練を用いず、折くに則ち刑し、唯だ五殺の刑を作り、法と曰う」と。則ち此れ善く刑を用うる者は以て民を治め、善く刑を用いざる者は以て五殺と為すを言う。則ち此れ豈に刑の不善ならんや。刑を用うること則ち不善なり、故に遂に以て五殺と為す。是を以て先王の書、術令の道いて曰く、「惟れ口は好を出だし戎を興す」と。則ち此れ善く口を用うる者は好を出だし、善く口を用いざる者は以て讒賊冦戎と為すを言う。則ち此れ豈に口の不善ならんや。口を用うること則ち不善なり、故に遂に以て䜛賊冦戎と為す。
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『政談』當時制度之なき事兼て制度を立てゝこれを安くするときは人々知る故分に過ぎたる奢りは自からなくて世上に費へなし、制度なければ上より奢りをするなと制し玉ふと云ふとも、是までが分相応にて是より上か奢りなりと云ふ「キツカケ」なけれはすへきやうなし、華美を好むは人情の常なる故制度なき故に世は次第に奢りに成行くなり、衣服の制度ある時は是は大名是は大役高官の人と云ふ事坐敷の上にても自から知るゝ故、人々貴きを敬ひ儀式自から乱れさるに、上一人より下は民までも何れも小袖を着上下を着ること同様にて、其衣服の地は金さへあれは何を着ても誰制する人なし、上下の見分けなき故高官大役の人下のものと別の立てやうなく、唯々いかつかましき体をして是にて高下を別のことに成り、我か身の君子の礼儀を失ふことをは知らず、御役人奉行なとの無礼甚しく、下たるものは礼に過ぎて這ひ屈み、諂ふ風俗甚しきも制度なきか故なり、

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