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塩鉄論 / 錯幣篇

大夫曰:「交幣通施、民事不及、物有所幷也。計本量委、民有饑者、穀有所藏也。智者有百人之功、愚者有不更本之事。人君不調、民有相萬之富也。此其所以或儲百年之余、或不厭糟糠也。民大富、則不可以祿使也、大強、則不可以罰威也。非散聚均利者不齊。故人主積其食、守其用、制其有餘、調其不足、禁溢羨、厄利塗、然後百姓可家給人足也。」

新字:大夫曰:「交幣通施、民事不及、物有所幷也。計本量委、民有饑者、穀有所蔵也。智者有百人之功、愚者有不更本之事。人君不調、民有相万之富也。此其所以或儲百年之余、或不厭糟糠也。民大富、則不可以禄使也、大強、則不可以罰威也。非散聚均利者不斉。故人主積其食、守其用、制其有余、調其不足、禁溢羨、厄利塗、然後百姓可家給人足也。」

書き下し

大夫曰く、幣を交え施を通ずるも、民事及ばざるは、物の幷せらるる所有ればなり。本を計り委を量るに、民に饑うる者有るは、穀の藏せらるる所有ればなり。智者は百人の功有り、愚者は本を更むる能わざるの事有り。人君調えざれば、民に相萬の富有るなり。此れ其の或いは百年の余を儲え、或いは糟糠に厭かざる所以なり。民大いに富めば、則ち祿を以て使うべからず、大いに強ければ、則ち罰を以て威すべからず。聚を散じ利を均しくする者に非ざれば齊しからず。故に人主は其の食を積み、其の用を守り、其の餘り有るを制し、其の不足を調え、溢羨を禁じ、利塗を厄せば、然る後に百姓は家給し人足るべきなり。

現代語訳

大夫が言った。「貨幣が行き交い物が流通しているのに民の暮らしが追いつかないのは、物がどこかで併呑されているからだ。元手を計り蓄えを量れば足りるはずなのに飢える者がいるのは、穀物がどこかに蔵い込まれているからだ。知恵のある者は百人分の働きに当たる成果を持ち、愚かな者は本業を立て直すことすらできない。君主が調整しなければ、民のあいだに一万倍の貧富の差ができる。だから一方は百年分の余りを蓄え、一方は糟や糠さえ腹いっぱい食べられない。民があまりに富めば俸禄では動かせなくなり、あまりに強くなれば罰でも脅せなくなる。集まったものを散らし利を均す者がいなければ、そろわないのだ。だから君主は食糧を積み、備えを守り、余っているところを抑え、足りないところを補い、行き過ぎた儲けを禁じ、利の抜け道を塞ぐ。そうしてはじめて、どの家も足り、どの人も足りるようになる」

解説

貨幣と流通の篇に入って、大夫は貧富の差を正面から論じました。物も貨幣も回っているのに飢える者がいる。原因は生産ではなく偏りだ、という前段からの続きです。「民に相萬の富有り」——一万倍の差という言い方は生々しい。そして怖いのは差そのものより、富みすぎた者が俸禄でも罰でも動かせなくなることだ、と指摘します。統治する側から見た格差論であり、道義ではなく統治の可否から語っている点が特徴です。この視点は、いま企業や国家が特定の巨大企業を扱いかねる場面と、そのまま重なります。

この章句が説くこと

民に相万の富有り余り有るを制し不足を調う聚を散じ利を均しくす格差分配制度

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